2016年に公開された『君の名は』が大ヒットし、今や日本を代表するアニメを輩出する作家の一人となった新海誠監督の勢いは止まるところを知りません。
2023年11月に公開された『すずめの戸締まり』は、1ヶ月も経たないうちに累計興行収入約62億6900万人を達成し、およそ460万人の観客動員数を記録しています。
ヒットの理由としては、『君の名は』でもお馴染みの美しい星空や風景と、謎めいた猫「ダイジン」のキャラクターなのではと予測されます。
新海誠作品は、「星を追う子ども(2011)」以外は人間のキャラクターのみで話が進行する作品が多いです。
しかし本作では、猫のダイジンの行方を主人公の鈴芽(すずめ)と椅子になってしまった草太が追いかけるというストーリー展開になっています。
本記事では、地震を予測し、気まぐれでかわいく時には気味の悪さを感じる、謎と悲しみを孕んだ「ダイジン」の謎について考察しました。
すずめの戸締まりとは?
すずめの戸締まりとは、震災孤児となった主人公鈴芽が、閉じ師と呼ばれる仕事をしている草太と、ミミズという地震を呼ぶ化け物がでてきてしまう扉を閉めてまわるというお話です。
鈴芽と草太は宮崎の廃墟にある扉から、ミミズが出てくるのを目撃し、初対面にも関わらず意気投合し協力して扉を閉めました。
無事に扉は閉められたものの、地震は発生してしまい草太は腕に怪我をしてしまいます。
鈴芽は、自分の家に草介を連れて行き、怪我の手当をしてあげます。
そこへ、見覚えのある一匹の白い斑猫がやってきました。
その猫は、鈴芽が廃墟の扉を見つけた時、引き抜いてしまった石が変化した猫でした。
すずめ すき
おまえは じゃま
引用:©︎2022「すずめの戸締まり」すずめの戸締まり制作委員会
猫はそう話すと、草太は鈴芽が子供の頃から大事に持っていた椅子に変身してしまいました。
鈴芽は、草太を元に戻すために猫のダイジンを追って日本各地を周る旅に出ます。
猫のダイジンとは
猫のダイジンは、元々は扉の向こう側の世界である常世からやってくる地震を防ぐ要石という役割をしていました。
しかし、鈴芽は要石であったダイジンが気になり、そっと両手で握って抜いてしまいました。
要石の氷はみるみる溶けて行き、そして小さな白い猫になり、走って逃げてしまいました。
なぜ要石が猫として描かれたのかというと、新海誠監督が猫好きであったことと、猫は異世界に導く案内役として的確であったと仰っていました。
また、ダイジンという名前は強大で大事な「大臣」という名前と「大神」という二つの名前を兼ねているようです。
鈴芽がダイジンに再び命を吹き込んだ理由としては、鈴芽が女性であったということが一因ではないかと推測されます。
また、鈴芽がダイジンを持ち上げる姿は、まるで赤ちゃんを抱き上げる様子に似ているようにも感じます。
要石とは
要石とは、地震を静めると言われる霊石で、閉じ師と言われる草太の祖先達が東京と宮崎に埋めた石でした。
その昔、閉じ師達はどのように不思議な力を備えた霊石を作ったのでしょうか?
鈴芽と草太は、要石の成り立ちや閉じ師の歴史について調べたのですが、文献には黒塗り部分が多く、詳しく調べることができませんでした。
また、草太が要石になってしまった時、祖父の羊朗は「それが運命だ」と意外な反応を見せました。
本記事では、映画本編の台詞や状況から、前作『天気の子』と同じように、ダイジンは地震を鎮める為に捧げられた人柱だったのではと考察しました。
実際、古来の日本では干ばつなどが続くと、子供を捧げ天変地異を収めたと言われています。
そのため、おそらくダイジンとサダイジンは、元々は人間でしたが、要石として神様としての役目を全うさせられるために姿を変えたのではと推測されます。
羊朗の病室にダイジン(サダイジン?)が現れた時、その瞳には優しさが感じられず、鋭い眼光を羊朗にむけていたのはその複雑な心境からだったのではと感じます。
しかし、命を与える役目のある女性である鈴芽が、ダイジンに触れたことによって、ダイジンは再び命を吹き込まれたのでしょう。
「すずめ すき」「おまえは じゃま」と言った理由
ダイジンは、命を生み出すことができる鈴芽のことを好きだと言い、昔自分を神様に仕立てた閉じ師の子孫である草太のことを嫌いと言いました。
そう考えると、ダイジンが突然草太を椅子に変え、要石にさせた理由も納得できます。
また、神様としての役割を与えられた時、ダイジンは恐らく幼かったのでしょう。
ダイジンの言動は子供らしく、自分の恨みに蓋をする自制心を持っているわけではなかったので、草太を椅子に変えてしまったのです。
ダイジンとサダイジンの能力
ダイジンとサダイジンは、姿は猫ですが、人の言葉を喋り不思議な能力を持っています。
本章では、ダイジンとサダイジンの能力についてまとめてみました。
地震を予知する
ダイジンが現れるところには、扉が出現しミミズが噴出し地震の予兆が現れました。
また、ミミズが現れるときには、ダイジンは悪びれる様子はなく楽しんでいるようにも感じられるほど朗らかでした。
「人がいっぱい死ぬよ」というダイジンに、鈴芽は憤りを隠しきれません。
訪れた場所に幸福を与える
ダイジンが訪れた場所には、なぜかお客が入り商売が繁盛する描写がありました。
愛媛の千果の民宿では、いつも以上にお客が入り、神戸のルミのスナックでも鈴芽が手伝わないといけないほど店が忙しくなりました。
実は、震災が起こった後にその土地が繁栄することは珍しいことではないのです。
東日本大震災があった東北でも、ボランティア活動などで宿泊する人が増え、皮肉にも被災地の知名度が上がり地価が上昇したことがありました。
災害が起こったとしても、自分が来た場所には必ず幸福が訪れると解っていたダイジンは、鈴芽が悲しむ理由がわからなかったのかもしれません。
人の本音を引き出すサダイジン
サダイジンは、ダイジンよりも大きい黒猫で目の周りが白く、ダイジンと正反対の配色の猫です。
そしてサダイジンは、出現すると人の悪意を露出させてしまう能力を持っていることがわかりました。
道の駅で、環と鈴芽が言い合いをしていた時、サダイジンが現れたことで環は内に隠されていた暗い本音が吹き出してしまいます。
しかし、本音を言い合えたことで、二人はその後仲直りをすることができました。
本来、左大臣という位は、大臣よりも位が高いと言われています。
そのため、サダイジンはダイジンよりも直接人間の行動を誘導したり、ミミズと戦う能力があるようです。
また、大きな体で包み込むようにダイジンと寄り添い、毛繕いをしてあげている様子は、神様になってしまった辛さを慰め合っているようにも見えました。
地震の原因になるミミズを抑える
要石であるダイジンとサダイジンは、地震の原因になるミミズを抑えることが一番大きな役割だと言えます。
しかし、ダイジンはミミズと直接戦うことができず、サダイジンは大きく猛々しい姿になりミミズと戦うことができます。
二匹は要石としてミミズに直接打ちつけるか、扉の向こう側に打ちつけることで地震を抑えることができます。
ダイジンの最後の台詞の意味
ダイジンは再び要石に戻る時、鈴芽にこう言います。
すずめの子にはなれなかったよ…
引用:©︎2022「すずめの戸締まり」すずめの戸締まり制作委員会
ダイジンは、鈴芽の家に来た時、餌を与えられ「うちの子になる?」と聞かれていますが、ダイジンは本当に鈴芽の子供になるつもりでいたのでしょう。
了承を与えられてダイジンは、ミミズの場所を教え、鈴芽に気に入られようとしますが逆に嫌われてしまった時は悲しかったですね。
再び要石になる役割を選んだダイジンが、どれだけ鈴芽のことを思っていたのかと考えると涙が溢れます。
まとめ
謎に溢れたダイジンについてまとめてきましたがいかがだったでしょうか?
ダイジンはマスコット的な役割を果たしながらも、物語の不吉な面も現す魅力的なキャラクターだったと感じます。
是非劇場でダイジンの活躍をみてあげてくださいね。
猫好きにはたまらない仕草がくせになることはまちがいありません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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