映画「君たちはどう生きるか」は、予告編などは一切公開されず、冒険活劇であることだけがジブリのプロデューサーである鈴木敏夫さんによって語られていました。
観客達は話の筋が全くわからない状態で、映画を鑑賞したのですが、まさか宮崎駿さんが描く異世界が鳥の王国であることが予想できた人はおそらくいなかったのではと思います。
本記事では、2023年8月23日に発刊された「SWITCH 8月号」で語られた、地下世界への想いや、インコ大王の正体について語っていきます。
インコ大王については、SNSなどではアニメのスポンサーではないかと言われることが多いですが、鈴木さんが語るインコ大王のモデルは全く違う人でした。
大伯父は何故地下世界に鳥を連れてきたのか
映画「君たちはどう生きるか」では、主人公眞人の大伯父は、流れ星と契約し、地下世界と現実の世界を繋ぐ城を建てました。
現実の世界から離れることになった大伯父は、大量の鳥達を地下世界に道連れにしました。
まるで聖書の登場人物であるノアが、方舟に動物を乗せて航海にでたように。
その理由としては、おそらく鳥達が大伯父にとって貴重な存在でどうしても種を残しておきたかったことと、地下世界でそれぞれの役割をこなして欲しかったのだと推測できます。
また、地下世界では大伯父やヒミのように不思議な力を手にいれることができますが、飛ぶという魔法は使うことができません。
鷺男のように二つの世界を行き来したり、現実の世界に干渉する手段として、地下世界に鳥達を連れてきたのではと考察します。
鷺男は地上の世界への橋渡しとして
鷺男は、映画「君たちはどう生きるか」の登場人物の中で、一番姿形が変わり多様な役割を持った人物だと言えます。
ヒミに頼まれて、主人公の眞人を地下世界へと誘おうとする鷺男ですが、城の中の扉を使うことなく地上世界に行くことができるのは彼だけのようです。
眞人と初めて会った時の鷺男は、屋敷内を悠然と飛び回り、川の水面をぽつぽつと歩いたと思ったら城の頂上に降り立ちます。
何をするかと思ったら小さな小窓に頭を突っ込み、そのまますぽんと城の中に吸い込まれるように入ってしまう鷺男を見た時は驚いた視聴者もいたのではないでしょうか。
そして、眞人がとうとう城の中に入ってくると、口の中から小男が顔を出し、その醜く突き出た鼻とコミカルな動きはユーモラスな道化師でした。
怪しい存在だった鷺男ですが、地下世界では風切り羽で作られた眞人の矢によって飛ぶ力を失い、時には眞人と言い合いの喧嘩などもして近しい存在に変わっていきます。
特に、ジブリは女の子と男の子のペアで異世界を駆け回ることが多いのですが、本作ではやっと等身大の男同士が行動を共にします。
ペリカンは魂の質量のコントロールをしていた
死の島で群れをなし、金の門のまえでたむろしていたペリカンは、人間の魂を食す存在だったのではと考察します。
死の島で生まれるワラワラ達は、穢れなく純粋な魂達ですが、その質量は膨大なものでした。
もしも全員が現実世界に登っていって、生まれてしまった場合、地下の世界でインコが食べ物を求めるように食糧難に陥ってしまう可能性もあったのでしょう。
そのため、ペリカン達は定期的にワラワラを食し、その質量をコントロールしていました。
しかし、地下世界の時間が流れていくごとに、ワラワラ達が生まれにくく、そして飛びにくくなっていきました。
なんでも飲み込んでしまうペリカンは、ワラワラ以外にも食べることができるものはあるのですが、どんなに飛んでも島に戻ってきてしまい仕方なく栄養効率の良い魂を食べざるを得ない状態でした。
墓の門の前で待機していたペリカンは、おそらく墓の中にあるとされる魂を食べようとしていて、眞人が門を開けると一斉に流れ込んできました。
宮崎駿さんの鳥にかける思い
ジブリ映画の鳥は、自然造形を描かせたら右に出るものはいない二木真希子さんという素晴らしいアニメーターさんが担当されていました。
二木さんが描く鳥は大変美しく、天空の城ラピュタでシータが鳩に餌をやるシーンなどは、今でも心に強く残っています。
ジブリのアニメで鳥が出てくるシーンは、ほぼ二木さんがいなくては成り立たなかったと鈴木プロデューサーは仰っています。
他にも「となりのトトロ」でめいとさつき、ととろ達がくすのきをぐんぐん成長させるシーンや、「魔女の宅急便」の冒頭シーンでキキが丘に寝っ転がるシーンなども担当しています。
ジブリのアニメを支えてきた二木さんでしたが、大変残念なことに2016年に58歳という若さで亡くなってしまいました。
この場を借りて謹んでご冥福をお祈りいたします。
宮崎駿さんも、二木さんという尊いアニメーターが亡くなってしまい、大変悲しんだことだと思います。
「君たちはどう生きるか」で、鳥がこれでもかと沢山でてきた理由の一つとしては、二木さんへの追悼もあったのかもしれません。
天国の二木さんに、新しいジブリの鳥達を見せてあげたかったという可能性は大きいのではないでしょうか。
インコ王国は何故形成されたのか
宮崎さんは、二木さんのようにリアリティのある本物の鳥ではなく、より人間味のある鳥を描きたかったためインコ王国というものを作ったのかもしれません。
そもそも鳥、特にインコは人間の4〜5歳児と同じくらいの知能を持ち、言葉をつなぎ合わせて会話を楽しむこともできるそうです。
また、道具を使ったり、子供のように遊具で遊ぶ姿も目撃されています。
仲間との協調性の高いインコを地下世界に連れていくことで、大叔父は世界を安定に導いてくれるのではと考えたのかもしれません。
しかし、増え過ぎてしまったインコ達は、ペリカンと同じように食糧難に陥り、眞人のことも捕まえて食べようとしました。
元々は頭が良く優れた存在だったはずのインコ達が、醜く一辺倒に考える力を無くしてしまった様子は、社会に出た途端に支持待ち人間になってしまう大人達を揶揄しているようにみえます。
インコ大王の正体
地下世界でインコ達を支配していたのは、皇帝の格好をした恰幅の良いインコ大王でした。
考える力を無くしてしまったインコ達を統率し、部下からも信頼が厚い様子をみると、インコ大王は相当カリスマ性の溢れる人物だったのでしょう。
初めてインコ大王を見た時、小説「君たちはどう生きるか」で少しだけ触れられた皇帝ナポレオンなのではと感じました。
圧倒的なカリスマ性で、フランスを勝利に導き皇帝となったナポレオンでしたが、イギリスとプロセインに敗北し島に幽閉された状態でその生涯を終えました。
横暴で自分を実際よりも、大きくカッコよく見せた皇帝でしたが、最後は収まりがつかず世界の安寧を守る積み木をバラバラに切り刻んでしまいました。
インコ大王は宮崎駿さん本人
プロデューサーの鈴木敏夫さんは「宮さんは自分がインコ大王で、なりたかったもう一人の自分は眞人だ」と宮崎さん自身が言っていたと「SWITCH 8月号」で語っています。
確かに、圧倒的な才能とカリスマ性を持ち、ジブリというアニメ制作会社を立ち上げた宮崎さんはインコ大王そのものでした。
そして、自らが悪役に立つことによって、「君たちはどう生きるか」という物語を終焉に導いたのではとSWITCH 8月号で小説家の池澤直樹さんは考察しています。
宮崎さん本人であるインコ大王は、理想の少年である眞人には勝つことはできなかったと考えると面白いですね。
さいごに
地下世界が鳥の王国になった理由や、インコ大王の正体が宮崎駿さん本人だったことについて触れてきましたがいかがだったでしょうか。
難解でわかりにくいと言われてきた本作ですが、SWITCH 8月号で鈴木敏夫さんがロングインタビューに答えてくれたことで、物語が本当に緻密に構成されていたことがわかりました。
映画館で「君たちがどう生きるか」を見た後、よくわからないなと感じたら、SWITCH 8月号を読んでみることをお勧めいたします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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