ダウン症の男の子を、ゲイのカップルが引き取り一緒に暮らしたという、実話を元にした衝撃作【チョコレートドーナッツ】をご存知でしょうか。
本作は、2012年に映画化され、2014年には日本でも公開され話題にあがり、2020年に舞台化を果たしました。
さらに、人気俳優である東山紀之氏が主役であるルディ役を担い、本当にダウン症のある男の子を起用したことも話題を呼びました。
しかし、東山紀之さんが実質経営者となった、元ジャニーズ事務所の問題が発覚し、本作の舞台も公開されるか否か問題になりました。
ある種の戸惑いもありましたが、舞台は無事に開演され、2023年10月14日に、渋谷パルコ劇場にて【チョコレートドーナツ】のお芝居を見る夢が叶いました。
本記事では、東山紀之氏の最後の舞台である【チョコレートドーナツ】を見た感想や心に残った点などについてまとめていきます。
最後の東山紀之さんが歌った「I shall be released」は、危機迫るというか自分の舞台人生の最後を捧げるかのような歌声で、涙なしではみることはできませんでした。
会場ではスタンディングオーベーションが巻き起こり、何度も何度もカーテンコールが繰り返されたことは、一生忘れられない経験になりました。
【チョコレートドーナツ】のあらすじ
チョコレートドーナツの舞台は、1979年のカルフォルニアで、ショーパブのダンサーであるルディの店に検察官のポールがやってきた夜から話は始まります。
ルディは普段お客を部屋に呼んだりしませんが、酔い潰れたポールを気遣い惹かれるものを感じ、安アパートの自分の部屋に連れていきました。
しかし、ルディの隣の部屋から騒音が鳴り響き、ルディが注意しに行くと、そこにはダウン症のマルコが一人残されていました。
マルコの母親は、薬物依存で男性を頻繁に家に呼び、マルコに適切な環境を与えていませんでしたが、ルディと口論し夜中に飛び出したまま逮捕されてしまいました。
ルディはマルコを育てるといいますが、検察官のポールはそれがどれほど大変なことかわかっているので、マルコは家庭庁に預けるようにいいます。
しかし、ポールもマルコと過ごすうちに、少しずつ考え方が変わっていきます。
マルコの養育権を巡って、ポールとルディは裁判で争いますが、マルコは一体どうなってしまうのでしょうか。
東山紀之さんが演じる強く美しいルディ
舞台を見るまでは、連日報道されている某事務所の問題が目に入ってきて、果たして東山紀之さんの演技を楽しむことができるか不安な気持ちがありました。
しかし、実際に東山さんが煌びやかな服を纏い、ゲイバーのショーを披露した時、その不安は一気に吹っ飛び猛烈に舞台に惹きこまれました。
しなやかな足はハイヒールとよくマッチしていて、女性のような滑らかさを持ちながらも、肩から腕にかけてのたくましさは男性の力強さそのものでした。
女性性の優しさと、男性性の強さを、東山さんは既に持ち合わせていて、さらに卓越したダンスと演技で観客を圧倒していました。
ショーが圧巻
ルディはショーパブでダンサーとして働いているので、劇中では何度も洗練されたダンスショーを鑑賞することができます。
煌びやかで、舞台のライトを受けて輝くダンスは、観ているだけで生きる希望が湧き上がってきます。
男性でありながらも、女性としてダンスを披露し、観客を楽しませるために全身全霊をかけていることが伝わってきました。
また、ショーダンサーの一人である、シュート・チェンさんは、自身が同性愛者であることをカミングアウトされていらっしゃまいます。
豪華キャスト陣
2023年に再演された【チョコレートドーナツ】は、キャストを一新し、さらに豪華な俳優陣が出揃いました。
ロディの恋人ポールは、谷原章介さんから、岡本圭人さんに変更されよりフレッシュな印象になりました。
20代の岡本さんのポールは、未熟さは残るものも、本気で世の中を変えたいという熱い気持ちが伝わってきました。
そして、ポールの上司で凝り固まった正義感を持ったウィルソンは、相棒の角田課長を演じる山西惇さんが嫌味たっぷりの演じてくれました。
法廷で裁判の決断をくだす女性判事は、高畑淳子さんが気迫たっぷりで女優の力を感じました。
同性愛者には母性本能はある?
同性愛者は、基本的に愛することで子供を授かることはできませんが、だからといって子供を愛したいと思っていないわけではないのです。
チョコレートドーナツのルディには、実際にモデルがいて、ニューヨークで美容師として働きながら障害児を育てていた人が本当にいたそうです。
1979年には、同性同士の結婚は禁止され、子供を持つことなどできないと言われた世の中でしたが、現在は結婚をして子供を育てているカップルも数多く存在します。
日本でも同性カップルが子供を持つことに関して、もう少し寛容であってもいいのではと個人的には考えます。
母性は子供を産んだから芽生えるものじゃない
劇中では、ルディは困っているマルコをすぐに助けて育ててくれようとしました。
マルコの母親は頻繁に男性を家に招き、夜中でも構わず騒音を響かせていましたが、そのような過酷な状況に置かれていたマルコをルディは助けたいと考えました。
「誰かのためになりたい」という感情は、子供を産むことで芽生える訳ではなく、大人でも子供でも同性愛者でも根本的に持っている優しさなのです。
キャリーは何故ルディを抱きしめたのか
ルディのライバル的な立ち位置にいるキャリーは、ルディがマルコを引き取ることについて、度々嫌味を言っていました。
キャリーはルディに突っかかり、喧嘩をわざと売るようなことを言っていたのは、家族を持とうとするルディを羨ましいと感じていたからです。
心の奥底では、家族を持って愛の溢れる暮らしをしたいと考えていたキャリーですが、時代背景や自分の状況を考えそのような願いを奥底に留めておこうと考えていたのです。
ルディがマルコを店に連れてきたことで、キャリーの嫉妬は抑えることができなくなってしまったのでしょう。
キャリーは、劇中の後半で、ルディと熱い抱擁をしますが二人がただいがみ合っていたのではなく、心から向き合うことができる相手同志だったことがわかります。
キャリー役の穴沢祐介さんは、舞台の振り付けや演出を年間15本以上手がけており、美しく力強い演技とダンスを魅せてくれました。
卓越した舞台装置のおかげでテンポよく話が進む
舞台【チョコレートドーナツ】では、劇中にパネルを多数設置し動かすことで、場面展開を素早く切り替える演出に成功していました。
ゲイバーのショーが終わったと思ったら、ルディの部屋に二人が来ていたり、裁判所や刑務所など場面がスピーディーに変わっていきました。
そのため話のテンポがよく、途中で集中力が途切れず、観客は最後までお芝居に没頭できる演出が施されていました。
また、曲によっては生バンドの演奏があり、臨場感溢れるライブが魅力的でした。
会場が明るくなり観客に問いかけるシーン
【チョコレートドーナツ】の劇は、ポールが観客に呼びかけるシーンから始まりますが、この舞台は直接観客に語りかける場面が多いなと感じました。
特に、物語の後半では、ポールが観客に対してある問いかけを行いますが、その際に観客席のライトがパッと点灯します。
LGBTの問題について、あなたたちはどのように考えますか、向き合って考えてみてほしいと強く訴えられました。
東山紀之さんが観客席に来る?!
2023年10月14日の公演では、東山紀之さん演じるルディが、二回も観客席を通ってくれました。
手を伸ばせば触れそうな距離にいらっしゃり、そのオーラや存在感にドキッとさせられました。
ファンにはたまらないサービスだったのではと感じます。
ダウン症児の扱いについて
実際に、ダウン症児と深く関わる身としては、ダウン症児の朗らかさや優しさを話中でもっと表現してもらえると嬉しいなと感じました。
特有の笑顔と楽観的な性格を持つダウン症児ですが、【チョコレートドーナツ】のマルコは、ただただかわいそうで不憫な子供としてパッケージ化されており、別にダウン症でなくても良かったのではと感じることもありました。
話の要点は障害児の問題ではなくLGBT問題
舞台【チョコレートドーナツ】の中心人物は、あくまでもルディとポールで、ダウン症児のマルコの心情などについては多く語られません。
そのため、ダウン症のある人の演技が見たい、舞台で活躍しているところをみたいと感じる人にとっては肩透かしだと感じることもあるかもしれません。
ダウン症がある人が、舞台に立つだけでも大変な努力を感じますが、演技力についてはまだまだ伸びしろがあるなと感じました。
今回は、前公演でも活躍した丹下開登(かいと)さんが演じられましたが、声量と演技力をもっと上げてもらえると嬉しいなと感じました。
ダウン症児の無邪気さが存分に生かされないことが残念
先述しましたが、ダウン症児のマルコは終始俯いていることが多く、笑顔があまり見れないことが残念でした。
唯一、ハロウィンパーティーでみんなと踊っている時は、心から楽しそうに笑っていました。
カーテーンコールでは、開登君はとっても楽しそうで、大声を出し投げキッスとしをして、お芝居中の何倍も楽しそうでした。
開登君の愛らしさも手伝って、カーテンコールは三度も行われ、その度にニコニコしている開登君がいつまでも心の中に残りました。
さいごに
舞台【チョコレートドーナツ】の感想についてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
今まで何回か舞台を見てきましたが、【チョコレートドーナッツ】は最も誰かにおすすめしたい舞台の一つとして心の中にいつまでも刻まれるだろうと確信しました。
是非お時間がありましたら、会場に足を運んでみてくださいね。
東山紀之さんの熱演がみられるのは、もうこの機会以外にないことでしょう。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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