年が明けて初めて見に行った映画は、ダウン症をもつ弟とその兄との間に起きた事件を題材にした【弟は僕のヒーロー】でした。
イタリアから配給された本作は、近くの映画館では公開はされておらず、自転車を片道約20キロ走らせてアップリンク吉祥寺まで足を運びました。
苦労して見に行った甲斐もあり、【弟は僕のヒーロー】はとても素晴らしい作品で、イタリアの家族の絆を優しく暖かく描いた傑作でした。
本記事では、実際にダウン症児を育てている立場から、【弟は僕のヒーロー】の見どころなどをまとめてみました。
主人公のジャック演じるフランシスコ・ゲギ君は、思春期の多彩な表情を見事に演じていて、ジョー役のロレンツォ・シスト君は実際にダウン症を持っており、朗らかで優しい表情が魅力的でした。
【弟は僕のヒーロー】の公開情報
映画【弟は僕のヒーロー】は、東京でも5館でしか上映しておらず、今回アップリンク吉祥寺まで自転車を漕いで行くことになりました。
劇場情報はこちら→https://theaters.jp/15994
吉祥寺パルコの地下二階にあるアップリンク吉祥寺では、【弟は僕のヒーロー】のコーナーが設けられており、原作者であるジャコモ・マッツァリオールさんのサイン入りポスターも飾られていました。


また、先着順で【弟は僕のヒーロー】のオリジナルポストカードや、イタリア産チョコレートをもらうことができました。
チョコレートは、甘くて口当たりがよく、中にはナッツも入っていて美味しかったです。
【弟は僕のヒーロー】のあらすじ
先述しましたが、【弟は僕のヒーロー】はダウン症の弟ジョーの兄であるジャックが、弟の存在が恥ずかしくなり嘘をついてしまった実話を元に作られた映画です。
二人の姉を持つ4歳のジャックは、弟が生まれるのを心待ちにしていましたが、父は弟のことを特別な子だと子供達に話しました。
幼いジャックは、ジョーがヒーローのように強かったり超能力があるのではと考えますが、実際のジョーは何をするにもゆっくりで食べ物を喉に詰まらせたり、特にスペシャルなところはありませんでした。
アイスコーンを食べなかったり、話が少し通じないところがあったり、自由に過ごすジョーをジャックは大好きでしたが、時々飽き飽きしていました。
そんな時、気になる女の子が遠方の高校に通うことを知ったジャックは、同じ高校に通えるように家族に懇願します。
自分の生まれ育った小さな町から、大きな町の高校に通うことになったジャックは、個性的な友達やかわいい彼女から新鮮な刺激を受けます。
しかし、家族について聞かれたジャックは、現在の立場が危うくならないように弟は死んでしまったと嘘ををついてしまいます。
その小さな嘘は隠し切ることができず、やがてジャックは取り返しのつかない大きな事件を起こしてしまいます。
家族の絆
イタリアはカトリック教徒が多い国だと聞いたことがありますが、作中で夫婦が何度か会話するシーンがありますが、「中絶」という言葉がでてこなかったのはさすがだなと感じました。
「事前にジョーがダウン症だとわかっていれば、準備ができた」と繰り返し言い合い、ジョーがなるかもしれない病気の確率を言い合っていました。
子供達の前では努めて笑顔で接し、夫婦でいる時はこれからどうするか不安な気持ちをこぼしたり、抱き合って眠る様子などは、ダウン症児を産んだ時の気持ちを思い出しました。
辛い時だからこそ笑顔を忘れない
ダウン症児を産んでしまった時、悲しみで気持ちが塞ぎ込んでしまう人が多いように感じます。
しかし、ジョーの両親であるダヴィデとカティアは、子供達が見たことのないような笑顔でジョーが生まれたことを報告します。
その様子に、ジャックは若干引いてしまうほどでしたが、次第に弟を受け入れていきます。
また、ジャックが新しい高校で上手く行かず、たびたびドロレス叔母さんのところをしょぼくれた顔で会いに来ることがあります。
するとドロレス叔母さんは、ジャックの口角を無理やり指で押し上げて「笑顔を忘れずに」と言い聞かせます。
辛い時ほど笑顔をみせることが、イタリア人の文化であり、優しさと力強さなんだと感じました。
ダウン症のジョーについて
先述しましたが【弟は僕のヒーロー】のジョー役は、実際にダウン症があるロレンツォ・シスト君が演じています。
知的障害を患うダウン症児は、演技指導は難しいそうで、昨年話題になった舞台【チョコレートドーナツ】では二人の専用の演技指導者がダウン症のある演者について指導したそうです。
しかし、映画【弟は僕のヒーロー】では、ダウン症児に演技をさせるというよりは、自然でありのままの表情や仕草を引き出しているようにみえました。
そのため、実際にダウン症児と関わる人ならわかると思いますが、ご機嫌だとニコニコしながら鼻歌を歌っていたりくるくる回ったり、緊張すると動きがゆっくりになってしまうことなどごく自然なルーティーンをロレンツォ君は見せてくれました。
普段ダウン症がある人と接しない人でも「何だかかわいい」と思ってもらえそうなほど、キュートでかわいいジョー君に病みつきになってしまう人もいるかもしれません。
ジャックについて
主人公のジャックについては、本当に普通の少年で、幼い頃から弟を通して揺れ動く気持ちに共感できる人が多かったのではと感じます。
弟が好きで、励まされたり一緒に楽しんだり、恥ずかしく感じて存在を隠そうと思ったり、でもそれは悪いことではなく人として当たり前の感情だと思います。
両親はジョーの存在を一度も否定しませんでしたが、ジャックはまだ理性というものが確立していないので弟を蔑む感情と葛藤し続けます。
また、弟がダウン症児であることを受け入れなければという葛藤は、まだダウン症のある子を産んでしまって苦しんでいる人にとっても、感情移入がしやすいかもしれません。
親友のヴィット君の存在
【弟は僕のヒーロー】の登場人物は、皆魅力的で優しいのですが、個人的にはジャックの幼馴染で親友であるヴィット君が素敵だなと感じました。
一緒にバスケットボールを楽しんだり、バスに乗る時は隣に座り、今日学校であったことを二人で話し合ったり、話の展開の補助的存在になっていました。
ジャックがジョーが死んでしまったと嘘をついた時、もうジャックの隣に座らないと席を移動しますが、遠目からはジャックの様子を伺っている距離感は絆の深さを感じました。
また、ジャックの家族には、ジャックが学校では弟の存在を隠しているという秘密は決して漏らさず、ジョーにもYoutubeのチャンネルを作ってくれたり優しい人だなと感じました。
最後に二人が仲直りして、一緒にバスケットボールをするところは、二人が困難を乗り越えることができてよかったと感じました。
恋は人を変える
ジャックの恋人である、アリアンナについてなのですが、彼女が原作者であるジャコモ・マッツリオールに多大な影響を与えたのは言うまでもありません。
幼い頃は母親とマルクスを読み合っていたというアリアンナですが、それが本当なのか着色なのかはイマイチ最後までわかりませんでした。
学生連合を立ち上げたり、デモに参加したりする彼女からの影響もあって、ジャコモさんがYoutubeを始め、映画作りまで成し遂げることができたのではないかとも考えられます。
ただ、アリアンナはマリファナを常用する生徒と一緒にいたり、必ずしもクリーンな立場ではないようにも感じます。
今回ジャコモさんは、日本にいらっしゃって【弟は僕のヒーロー】を積極的に宣伝してくれましたが、彼女とは一呼吸開けた距離を保っていて欲しいなと感じました。
さいごに
映画【弟は僕のヒーロー】の見どころについてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
イタリア人の魅力や、ダウン症児の朗らかさ、家族の大切さが存分に詰まった映画だと感じました。
上映館は限られていますが、ぜひ機会があったら見てみて欲しい作品です。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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