2023年、カンヌ賞の中で最高峰といわれるパルムドール賞を受賞した【落下の解剖学】が2024年2月23日に日本で公開されました。
本作のポスターは、映画のワンシーンをそのまま引き抜いてきたようで、横たわる死体と慌てふためく遺族の様子がそのまま使われています。
一体家族になにがあったのか、興味が湧くような作りになっています。
どうして夫が亡くなってしまったのか、他殺なのか事故なのか、それとも自殺なのかが裁判によって明らかになっていきます。
裁判というと堅苦しくてよくわからないという固定概念がありましたが、【落下の解剖学】では独特のカメラワークと脚本で非常にリアリティがありながらも没入感溢れる絵作りににあっていました。
本記事では、どの【落下の解剖学】を実際にみてきた感想、あらすじや見どころについてまとめてみました。
どんな夫婦でも、サンドラとサミュエルのような状況に陥るのは紙一重の確率だと、日々の行いに気をつけようとかんじました。
落下の解剖学のあらすじ
ドイツ人のサンドラと、フランス人のサミュエルはロンドンの大学で出会い恋に落ち結婚しました。
やがて二人の間には息子が生まれ、幸せな日々を送っていましたが、息子が4歳の時に不幸な事故にあってしまいました。
その日、執筆活動に勤しんでいたサミュエルは、息子の送り迎えをベビーシッターを頼んだのですが、帰る道中で事故にあった息子は目が見えなくなってしまいます。
息子の育児に積極的になるサミュエルですが、執筆活動は進まず、金銭的にも厳しくなり山頂近くにある山小屋に家族で引っ越します。
そして、その日珍しく家族に来客があり、妻のサンドラはお酒を飲みながら学生のインタビューに答えていました。
すると、屋根裏部屋で仕事をしていた夫は、急に音楽のボリュームを上げ、インタビューは中止せざるを得ませんでした。
その後息子のダニエルは犬と散歩に行き、サンドラが自室でうたた寝をしていると、その間サミュエルは血を流し雪の上で亡くなっていた。
サンドラは、サミュエルは自殺だといいますが、世間はそう思ってくれず、第一発見者のダニエルを巻き込んだ苦しい裁判が始まります。
どの夫婦にも起こる可能性
落下の解剖学の監督である、ジュスティーヌ・トリエさんは『家族や家というものは、社会が作り出している一種の実験室のようだ』と話しています。
確かに、家族というものは皆体裁上は幸せで満ち足りているようにみえますが、内情を深掘りしてみると複雑で愛憎が渦巻いている時があります。
また、子供が事故にあってしまう確率は誰にでもあり、何かトラブルがあれば夫婦の力の均衡はいとも簡単に崩れてしまいます。
特に、サミュエルとサンドラは、フランス人とドイツ人の夫婦で異なる母国語を話し、文化や考え方には元々相違があったのかもしれません。
実際にドイツ人であるサンドラ役のザンドラ・ヒュラーは、泣き喚いたり我を忘れるほど取り乱すようなことはせず、合理的で冷静なドイツ人を演じきっていていました。
ヨーロッパで高い評価を受ける彼女の演技は、みるものを退屈させず、物語に強く引き込んでくれました。
外国人は裁判に不利?
フランス人のサミュエルと共に、山荘に引っ越してきたサンドラですが、作中で何度も『フランス語に慣れない』『英語で話したい』とこぼしている場面がありました。
そして、英語が堪能な友人であり弁護士であるヴァンサンと話す時は、どこかほっとする表情をみることができました。
サンドラをみていると、異なる言語や習慣を身につけ、近所の人に不審がられないように接することは、並以上の努力が必要なのだとわかりました。
そして、夫が不審死を遂げたことで裁判に出廷することになったサンドラは、フランス語が上手く喋れず苦心する様子に胸苦しさを感じます。
フランス語の単語がわからず、質疑を中断してヴァンサンに話しかけたりすると、鋭く裁判官や検察官に注意され、まるで攻め立てられているように感じてしまいます。
そして、やむを得ずサンドラが英語で喋り始めると、今度は証人がイヤホンをつけるのに手こずったりなかなか上手くいきません。
証人達は被害者でフランス人のサミュエルには同情しますが、サンドラに対しては冷たい目線を送っており胸が苦しくなりました。
落下の解剖学を鑑賞して、絶対に外国で裁判に巻き込まれたくないなと感じました。
弁護士はサンドラの元カレ
サンドラの弁護士で、以前はサンドラに恋をしていたと話すヴァンサンは、物語の中で特に魅力的だなと感じた人物でした。
『あの時思わず君に恋に落ちた』とフランス人らしく甘い告白をしてみたり、苦しむ彼女と英語で話し、時には涙する彼女を車に乗せて運転したりととても献身的でした。
しかし、この献身さが本当にサンドラを好きだからしていたのか、裁判に勝つために彼女を奮い立たせていたのか疑惑が残りました。
そのため、二人が一線を超えている描写はなく、つかず離れずの関係に歯痒さと悲しさを感じました。
二人が恋をしていたのは遠い昔のことで、もうあの時には戻れないんだと、ノスタルジックな気持ちにさせられました。
揺れ動くダニエルの心
視覚障害がある、息子のダニエルを演じるミロ・マシャド・グラネーは作中でとても良い演技を見せてくれました。
物語の冒頭で、ダニエルは犬の体を洗ってあげたり、棒を投げて遊んであげたりするのですが、目が見えないながらも経験を積んで実生活を送っている仕草がよくできていたと思います。
また、法廷で証人席に座ったダニエルの両脇には、検察官と弁護士が立ち、それぞれ異なる意見をダニエルにぶつけてきます。
二人がなにか話すたびに、カメラが左右に揺れ、ダニエルの揺れ動く心理状況がよく表現されていたのがとてもよかったです。
父親が亡くなり、母親が容疑者の疑いをかけられ、さらに二人の関係が顕になってしまい、ダニエルはとても苦しみます。
そして裁判が終わった後、苦しみを乗り越え、少し大人な顔つきになりサンドラと抱擁するシーンはとても感動的でした。
さいごに
【落下の解剖学】のあらすじやみどころについてまとめてみましたがいかがだったでしょうか。
本映画の脚本は、監督のパートナーであるアーサー・ハラリが書き上げたそうですが、夫婦喧嘩のセリフなどはフィクションだと思えないほど完成度が高かったです。
夫婦関係に悩んでいる人だったら、絶対に共感できると思いますので、機会があったら映画館で見ることをおすすめいたします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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