アカデミー賞音響賞受賞【関心領域】気分が悪くなる映画…夢のマイホームはアウシュヴィッツの隣

アカデミー賞音響賞受賞【関心領域】気分が悪くなる映画…夢のマイホームはアウシュヴィッツの隣 2024年映画

2023年アカデミー賞音響賞を受賞した【関心領域】は、日本での公開は少々遅れ2024年5月17日に封を切れらました。

アウシュヴィッツの隣に住んでいる家族の姿を、ありのままに描写した【関心領域】は大いに話題になり、恐る恐る劇場に足を運びました。

今までいろいろな映画を劇場で鑑賞してきましたが、映画館でこんなに気分が悪くなったのは初めてでした。

原因はアカデミー賞を受賞した音響で、終始体の奥に響くような重い振動が鳴り響いており、所謂グロ描写が無いにも関わらず気持ちが悪くなる映画でした。

本記事では、【関心領域】を実際に観てきた感想などをネタバレありでまとめてみました。

関心領域について

1945年、ナチスの高官であるルドルフ・ヘスは、家族と共にアウシュヴィッツの隣に家を構え幸せに暮らしていました。

以前から理想的な家を思い描いていた妻のヘイトヴィヒは、庭に様々な花を植え、プールを作りたびたびパーティーを開き幸せに暮らしていました。

二人の娘と二人の息子に加え、赤ちゃんも産まれ、誰から見ても順風満帆な家族でした。

しかし、ルドルフは突然異動が決まり、家を離れざるを得なくなりました。

ヘイトヴィヒは、家を手放すことを強く拒否し、自分と子供達は絶対にこの家を離れないと言います。

ルドルフ役はヨーロッパ映画賞の最優秀主演男優賞に候補が上がったほど、ドイツでは評価の高いクリスティアン・フリーデルが演じており、品行方正なアウシュヴィッツの所長を演じています。

良くも悪くも一般的な妻ヘイトヴィヒを演じたのは、【落下の解剖学】で主演女優賞をノミネートされたザンドラ・ヒュラーで、彼女もドイツで高い評価を得ています。

アカデミー賞を獲得した音響がすごい

【関心領域】は、ストーリーというものがほとんどないと聞いていたので、退屈になって寝てしまったらどうしようと考えていました。

しかし、結果的にはうとうとした時間はあっても、ぐっすりと眠れる映画ではなかったのは、音響の役割大きかったのではと思いました。

まず、映画のタイトルが出た後は、画面が真っ暗でずっと重苦しい重低音が鳴り響きます。

そして、体感時間で5分から10分ほど経った後、美しい草原で遊ぶ家族達の映像が流れます。

鳥の鳴き声や川の流れる音、そして草のそよぐ音に、子供達の笑い声がきらきらと爽やかに流れてきてとても癒されました。

【関心領域】の音響は本当に拘っており、日常の些細な音を全て拾い上げており、これがアカデミー賞を受賞した作品の実力かと感心しました。

アウシュヴィッツからの音も結構はっきり聞こえるんだけど…

そんな詳細な音響を扱っている【関心領域】は、もちろんアウシュヴィッツ内の音も聞こえてきます。

子供達がベッドに入り、夫婦も疲れた様子でベットに横たわり目を瞑ると、明らかに収容所から男性の助けを求める声が聞こえた時は「こんな状況で良く眠れるな」と素直に感じました。

当時アウシュヴィッツ収容所では、収容所内の音がもれないように、オートバイのエンジン音を常にふかしていたそうなのですが、日中はその音がずっと聞こえてきていてとても気分が悪くなります。

そして時々聞こえてくる、銃声や人々の悲鳴が聞こえてくると、なかなか心が落ち着きません。

常にいろいろな音を拾っている【関心領域】は、正直体調が悪い人には、常に鳴り響く重低音でもっと気分が悪くなってしまうかもしれないのでおすすめできません。

夢のマイホームはアウシュヴィッツの隣

ヘス一家の家では、収容所内から悲鳴が聞こえ、大勢のユダヤ人が虐殺され燃やされた煙がもくもくと立ち昇っているのが見えます。

しかし、ヘス達家族はあえて沢山の人を家に招き、お喋りをし、アウシュヴィッツ収容所の隣に住むのがむしろラッキーだというように訪問者に語っていました。

そして、ユダヤ人から横領した服が「私には少し小さい、ユダヤ人の女は小柄だから…」などと、センシティブな体型について茶化してみたりします。

そして、周りの人間も咎める人など誰一人おらず、ごく一般的な世間話のように差別発言は流されていきました。

ナチスに属する家族の価値観は、現在の私たちの感覚とは大きくかけ離れているにも関わらず、映画が進むにつれて「この人たちはこういう人なんだ…」という諦めを感じました。

どこかで価値観が変わらないかと期待もしましたが、物語りの最後まで家族達が過ちに気付くことはありませんでした。

無関心と関心

本映画の【関心領域】という題名は、耳慣れない言葉ですが、「the zone of interest」という言葉を上手く和訳したと感じました。

ヘス一家の関心

ルドルフは、アウシュヴィッツの所長としてたくさんの人間が亡くなるのを間近で見てきましたが、亡くなっていった一人一人の人間の人生については一切関心を持っていないようにみえました。

「いかにして人間をたくさん処理できるか」という自らの仕事について、ひたすら突き詰めているように見えて、その思いを茶化してヘイトヴィヒに話したりもしていました。

ヘイトヴィヒに関しては、ひたすら理想の家にしがみついているように感じ、ルドルフが家を手放すかもしれないと言った時は強く反対しました。

子供達も、アウシュヴィッツから争う声が聞こえてくると、悪態をついてみたり、略奪品の差し歯をじっくり観察したり大人とやっていることは変わりませんでした。

また、ドイツ人特有なのかはわかりませんが、電気を時間になると順番に消していったり、雑草が生えることを許さなかったり、神経質な部分に目が行きました。

象徴的なのが、川に死体が流れて来たときは、子供達が苦しそうなのに念入りに体を洗ったりしている場面だと思います。

そこまで気にするなら、アウシュヴィッツの煙突から出てくる煙などは気にならなかったのかと不思議になります。

りんごを置いていった少女について

【関心領域】は、基本的にヘス一家の日常が映像として綴られていきますが、二回ほど軍事用のサーモグラフィのような映像がでてくることがあって混乱しました。

真っ暗な画面に、白く映し出された少女が、泥の塀にりんごを埋め込んでいくので「一体この子はなにをしているんだ」と困惑しました。

後から調べてみると、彼女は当時実際にアウシュヴィッツの近くに住んでいた少女で、瀕死のユダヤ人のために夜こっそりりんごを置いていっていたそうです。

引用 :https://moviewalker.jp/news/article/1199714/p2

彼女は、ユダヤ人達に無関心だったヘス一家との対比として描かれているのだと思いますが、関心をもって行動したからと言って、それが良い結果を招いたとは言えませんでした。

結局、りんごを持っていることが看守にばれてしまい、みつかったユダヤ人は銃殺されてしまっているので、なんとも後味が悪い話でした。

「余計なことをしなければ…」という考えが、ふっと頭をよぎりましたが、その考えこそが「無関心の増長」を表しているのではないか、自分はヘス一家と同じような思考になっているのではと少しゾッとしました。

壊れていく家族

ヘス一家は子宝にも恵まれ、大きな家と咲き誇る花、従業員も雇っており本当に表向きは理想的な家族でした。

しかし、映画が進むにつれて、綻びがボロボロと出てくるのが興味深かったです。

まず、冒頭からヘス一家の末っ子である赤ちゃんが、常に泣いていることが気に掛かります。

音や空気に敏感な赤ちゃんは、やはりアウシュヴィッツから常に鳴り響くエンジン音や、汚れた煙に耐えることができなかったのでしょう。

泣き止まない赤ちゃんの隣で、夜中ヘイトヴィヒは酒を飲み、従業員にあたったりヒステリックになっていっていることがわかります。

娘の一人も、眠れないと夜中出歩いたり、長男の男の子は次男の子をいたずらに温室に閉じ込めたりしています。

子供達は精神的に健康だとヘイトヴィヒは言っていましたが、親の見ていないところで精神的な苦痛を感じていることがわかります。

理想的な父親に見えたルドルフも、不貞を働いていたことがわかり、子供5人作ってもまだ足りないのかと呆れてしまいました。

どんなに世間体よく家族を取り繕っても、人の本質的な部分が腐っていると、次第に家は壊れていくんだと思いました。

さいごに

【関心領域】をみてきた感想についてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。

正直気分が悪くなる映画なので、無理して劇場に観にいく必要はないかもしれないです。

配信で視聴するぐらいが、音響の影響をダイレクトに受けなくてもいいので、気楽にみることができるかもしれないです。

最後まで読んでくれてありがとうございました。

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