2008年に全米で公開された【THE FALL-落下の王国-】は、本年最大の爆死映画だと英字のウェブニュースで読んだ時、とてもショックだったことを覚えている。
当時私はアメリカの東海岸にある小さな町に留学していて、バスに乗って中心街に向かい、5ドルを握りしめて小さな映画館で三度もこの映画を観に行ったからである。
なぜ私が三度もこの映画を観たのかというと、英語が全くわからず1度では映画の内容を理解することができなかったからである。
しかし、本当のところ三度観ても英語を理解することができず、なんとなく話は分かるけど全てを理解しないまま美しい風景にうっとりし、時には熟睡していた。
そして、ラストにアレクサンドリアとロイが泣きながら話しているのを観て、自分もつられて泣いてしまい、そして観終わった後は「見てよかった。またもう一度見たい」という気持ちになっていた。
日本に戻ってから、【THE FALL-落下の王国-】を字幕付きで見ることができ、全てのセリフの意味を知って咽び泣いてしまった。
その後【THE FALL-落下の王国-】は無料配信の対象になることはなく、日本版のDVDは6万円というプレミアがついてしまい、泣く泣くアメリカからDVDを取り寄せることになった。
今でも時々思い出したように、DVDプレイヤーで【THE FALL-落下の王国-】を視聴し、英語字幕でもボロボロ泣いてしまうほど自分の中で大切な作品となってしまった。
今回2025年11月21日から、日本でも4Kリマスター版で公開されることを知り、これを機会により多くの人に【THE FALL-落下の王国-】の素晴らしさを知ってほしいと切に願っている。
【THE FALL-落下の王国-】に出会ったきっかけ
2008年5月、英語の勉強にはやはり映画を見た方がいいと言われ、町の中心街にある映画館に一人で行ってみた。
映画館の受付の人に、どの映画がおすすめですか?と聞いたら【THE FAL-落下の王国-】がおすすめだよと言われたので、とりあえず見てみることにした。
その受付の人も、上映時に一番後ろの席に座り、何人かの友達も誘ってなにやらぶつぶつ喋りながら【THE FALL-落下の王国-】を鑑賞していた。
その時私はまだアメリカに来て日が浅かったのだが、移民であるアレクサンドリアの英語が辿々しくてなんだか親しみを持てた。
しかし、彼女以外の英語は早すぎて時には何を言っているかのかわからなかったのを覚えている。
圧倒的な世界遺産の景色に魅了されながらも、ゆっくりと船を漕いでいき、うとうとしているといつのまにか映画が終わっていた。
すると、後ろからあの映画の係員と友達が立ち上がってスクリーンに向かって拍手していた。
日本ではなかなか見ない、スクリーンに向かってのスタンディングオベーションを見て驚いてしまった私は、もしかして貴重な映画で寝てしまったのかなと焦ってしまった。
【THE FALL-落下の王国-】の魅力
【THE FALL 落下の王国】のあらすじは至ってシンプルで、事故で半身不随になってしまったスタントマンのロイが、骨折で入院しているアレキサンドリアに御伽話を聞かせてあげるという話だった。
お伽話の中で語られる6人の戦士達は、大切な人や尊厳を傷つけられてしまったため、悪人に復讐を果たすために古今東西いろいろな場所へ旅をする。
しかし、だからと言って撮影期間4年もかけて13箇所の世界遺産を舞台にロケを決行したのは、お金も手間もかかったと思うしいくらなんでもやりすぎだっただろう。
だからこそ、6人の戦士たちが走ったり戦ったり話したりしているシーンは、目を離せないほど美しく壮大でどの場面を切り取っても芸術としか言いようがなかった。
カメラもドローンでも使っているのか、かなり高所から広い範囲を撮影していて、キャラクター達が世界遺産を駆け回る映像は一体どうやったのかわかりませんでした。

さらに、衣装作家の石岡瑛子さんの衣装は6人の異世界感をより一層引き立て、小道具に至るまでも偽物感を感じさせない徹底ぶりだった。
どんなに英語が堪能でなくても、この圧倒的な映像美は世界共通で、全ての人の心を惹きつけるんじゃないかと思った。
ロイとアレキサンドリア
なぜロイはアレキサンドリアにお伽話をするのかというと、事故で半身不随になったロイは、フィアンセにも捨てられてしまい、自殺を考えていたからだった。
ロイは、アレキサンドリアに自分の足の指を触らせるシーンがあるのですが、どの指を触られているか分からずショックを受けてしまうのだ。

そして、アレクサンドリアにお伽話を聞かせる代わりに、彼女に病院にあるモルヒネを持って来させるのですが、彼女はなかなか薬を持ってくるのに手こずっていた。
それでも健気にロイを思い、お話をもっと聞かせてというアレキサンドリアがかわいくてかわいくて仕方がなかった。
そしていつのまにかアレクサンドリアも、ロイのお伽話の中に登場するようになり、黒山賊のことをお父さんと呼び一緒に旅をするようになります。
父を亡くしてしまったアレクサンドリアは、ロイのお伽話の中に希望と願望を共有していたのかもしれません。
アレキサンドリア役のカティンカ・アンタルーは当時5歳で、数百人のオーディションから選ばれたそうですが、飾らない自然で無邪気な眼差しが超魅力的だった。
ロイ役のリー・ペイスは、病室で横たわっているだけでも色気がただようほどイケメンで、黒山賊として馬に跨っている姿は王子様のようだった。
ロイがアレキサンドリアにお伽話をしていくうちに、どんどん大人の仮面が剥がれていき、本音が漏れ出していくのが辛かった。
ハッピーエンドがいい
アレクサンドリアは、棚の上の方の薬を取ろうとして、失敗して落ちて怪我をしてしまいます。
ロイは、アレクサンドリア鳴いて侘びながらも、もう希望が持てる冒険奇譚を語ることはできないと言います。
6人の戦士は一人ずつ力尽きてしまいき「なんでみんな死んでしまうの?」とアレクサンドリアが聞くと「それは私の物語だからだ」とロイは言います。
悪人オウディアスは、いつの間にかロイの恋敵に変わっており、徹底的に痛めつけられるロイは、アレクサンドリアの声を聞いて、ついにオウディアスに打ち勝った。
私たちはしばしば逆境に立つと、諦めてしまいたいと思う気持ちが先行してしまうけれども、どんな時でも戦っていかなくてはいけないとこの映画を見ると実感させられる。
映画【THE FALL-落下の王国-】のラストで、皆が狭い部屋にたくさんの人が集まって活動写真を見るシーンがあります。
年齢も性別も人生経験も異なる人達が、活動写真の同じシーンを見て、時には笑い時には何かを思い共有できる機会があるということはなんと素晴らしいことでしょうか。
さいごに
どんなに興行収入がふるわなくても、【THE FALL-落下の王国-】は私の中で何度見ても良いと思える映画になった。
ベートーヴェン交響曲第7番第二楽章のように、常に一歩一歩前に進んでいく活力をもらえる映画でした。
ぜひ映画館に足を運ぶことをお奨めいたします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。

コメント