2005年に上映された映画【エミリー・ローズ】が、20年の月日が経ち今Amazonプライムで無料視聴できるようになりました。
悪魔祓いを題材にした本作は、実際にドイツで悪魔に憑かれたアンネリーゼ・ミシェルをモデルにした作品で、法廷で悪魔祓いを担当したムーア神父の罪について問われる内容になっています。
日本では悪魔ではなく、狐が憑くと言われることが多いですが、キリスト教が広く信じられている欧米や欧州では悪魔祓いはより身近な存在であったと思われます。
本記事では、エミリー・ローズで使われた聖書の暗喩や、実際にあったアンネリーゼ事件の真相について解説していきます。
映画【エミリー・ローズ】のあらすじ
優秀な成績を収めたエミリーは、奨学金をとり大学生活をスタートしました。
しかし、入学後エミリーは自宅にいた頃とは別人になり、「悪魔に憑かれた」というようになっていました。
敬虔なクリスチャンであった彼女は、教会で神様に助けを求めようとしますが、教会への参列者や通行人も悪魔に見えるようになります。
彼女は悪魔祓いの儀式を受けますが、状況は良くなることはなく、ついには餓死してしまいます。
彼女の遺体を検視した医者は、彼女の死が自然なものではないと判断し、悪魔祓いに携わったムーア神父は裁判にかけられることになりました。
弁護士のエリンは、裁判に勝ち自分自身の栄転のために、ムーア神父に証言台に立たないようにいいますが、彼はエミリーの話を皆の前でしたいと言って譲りません。
さらに裁判中に奇怪なことが起こるようになり、エリンは夜中に悪魔の存在を感じ始めます。
聖母マリアとの対話・大木の存在
映画【エミリー・ローズ】では、エミリーが聖母マリアと対話するシーンが印象的で、DVDの表紙などにも使われています。

このように木と対話するシーンは、聖書にも出てくるのですが、旧約聖書の登場人物であるモーセが主ヤハウェと対峙する場面と非常に似通っているのです。
映画の製作者が意図的に、ローズと神様に仕えることを託された預言者の姿を、同じように映したとしか思えませんでした。
また、ローズの手と足には、イエス・キリストと同じように聖痕のような傷ができていたとエリンは裁判で証言しています。
このようにエミリー・ローズで、ローズを聖人として描写した理由は、モデルになったアンネリーゼの事件を知っておくべきかと思います。
悪魔に憑かれたアンネリーゼも、同じように聖母マリアと対話したと話し、自分は人々のために犠牲になるべきだと話したそうです。
実際にあったアンネリーゼ事件の概要
アンネリーゼ・ミシェルは、ドイツのバイエルン州で、熱心なカトリックの夫婦のもとに1952年9月に次女として産まれました。
頭がよく聡明だったアンネリーゼは、教会のミサに足繁く通い、成績も優秀な少女だったと母親は話していました。
しかし、思春期に入ってからけいれんやてんかんに悩まされるようになり、1970年には精神病院に入院し「悪魔がみえる」ようになってしまいます。
精神的治療ではアンネリーゼが回復しないと考えた両親は、教会に悪魔祓いの儀式をするように頼み込み、二人の神父が秘密裏に悪魔祓いの儀式を施すようになりました。
二時間にも及ぶ悪魔祓いの儀式が、75回も繰り返し行われたそうですが、アンネリーゼはますます悪魔に囚われていき壁を齧ったり昆虫を食べたり自傷行為を行うなどの危険な状態でした。
次第にアンネリーゼは衰弱していき、食べ物を拒否し歩く体力も無くなっていき、栄養失調で亡くなってしまいました。
アンネリーゼ事件の深い闇
アンネリーゼの事件については、悪魔祓いのデモテープなども残っており、悪魔のような声で話すアンネリーゼの声をyoutubeなどでも聞くことができます。
そのため、彼女が本当に悪魔に憑かれて死んでしまったように見えますが、1970年代の医療では悪魔祓いでしか彼女を救うことができなかったのでしょうか。
悪魔祓いの事件の影には、彼女の生い立ちや家庭環境、そして両親がこだわる世間体や宗教への執着が隠れていたのです。
母アンナはアンネリーゼを呪われた存在だと教え込んだ
母アンナは熱心なカトリック信者だったのだそうですが、結婚前に子供を孕ってしまうという、キリスト教徒にとっては重大な禁忌を犯していました。
また夫ヨーゼフの恋人を無理やり別れさせ、結婚してしまったので、彼の元恋人に恨まれ、一番上の子供が死んでしまったと信じ込んでいました。
その話を、幼いアンネリーゼにも話していたそうで、小さい頃から「あなたは呪われた存在」だと吹き込んでいたことがわかっています。
そして、カトリック信者として理想的であるようアンネリーゼを教育し、友達の家に兄弟がいる場合はその子の家で遊ばせないなど、男性を避けるようにさせました。
アンネリーゼは頭がよく、快活で元気な子でしたが、次第に悪魔や聖母マリアなどが見えると言い出すようになりました。
教会に入ることができなくなったり、ロザリオを引きちぎってしまったり、情緒が安定しなくなっていきました。
母アンナは娘が精神疾患であることより悪魔憑きであることを望んだ
アンネリーゼの母アンナは、写真で見る限り美しく、豊かな髪の毛をカールで整えてきちんとした淑女に見えました。
世間から娘や家族がどう見られているかを、とても気にするタイプだったようで、どんなに寒くてもアンネリーゼにズボンを履かせることを許さなかったそうです。
そして、自分のことは棚に上げて、娘たちに結婚する前に性交渉することは悪だと教え込んでいました。
その強い教えは、思春期のアンネリーゼを追い込んでいき、恋人のペーターができたときも、アンネリーゼは自分の欲望とカトリック信者としての貞操観念を戦わせていたようです。
彼女は6人の悪魔(ルシファー・カイン・ユダ・ネロ・ヒットラー・フライシュマン)に憑かれ、聖母マリアともたびたび対話していましたが、それは彼女の心の中の悪と良心だったのかもしれません。
アンネリーゼは壁を齧ったり、虫などを食べたり、2リットルのジュースを飲んで全て吐いてしまったり、拒食や過食と同じような症状を繰り返していました。
それでもアンネリーゼは、精神治療薬を飲むことができない、それをすることで結婚できなくなるし赤ちゃんにも悪いと話していました。
母アンナは驚くべきことに、アンネリーゼに精神疾患であることよりも悪魔憑きであることを望みました。
また、10ヶ月もの間行われた悪魔祓いは負担が大きく、アンネリーゼは悪魔祓いを辞めたいと申し出たそうですが母親も神父たちもそれを認めようとしませんでした。
アンネリーゼはカウンセリングの際、強く自死を願うようになったと記録されています。
そして悪魔を自分の中に閉じ込め、殉教のような状態で死ぬことが良いことのように、徐々に洗脳されていったのです。

のちに母アンナは、アンネリーゼの足と手にイエス・キリストのような傷ができるようになったといい、それは足を炎症をおこし酷い状態だったと話しています。
元々肺炎や敗血症で入院歴のあるアンネリーゼは、どんどん衰弱していき、栄養失調で餓死してしまい、検視を行った医者はとても自然な死と思えないといいました。
無理にでも栄養を与え、医療処置をするべきだったと、二人の神父は裁判にかけられましたが、禁錮6ヶ月執行猶予3年と罰金という比較的軽い刑が処されました。
しかもこの二人の神父は、カトリック教会から特にお咎めはなかったようで、その後も神父という職を真っ当したそうです。
アンネリーゼは死後聖人に祭り上げられた
さらに信じられないことは、アンネリーゼの死後にも起こっていて、アンネリーゼの両親と神父たちは彼女の遺体を墓から掘りおこしたそうです。
聖女である彼女は、死後数年経っても遺体は腐敗していないはずだと証明するためだったそうですが、その遺体はもちろん腐敗していて見るも無惨な状態だったそうです。
母アンナがアンネリーゼの事件を語る動画は、ビデオテープに残されていますが、彼女は年老いてもなおアンネリーゼが聖女だったと語っています。
アンネリーゼを語る目線は常に一方的で、他人の目線や他の考え方を一切受け入れることはせず、自分の思い描いていた娘像を楽しそうに語っていました。
もしも彼女が狂気に取り憑かれていなかったら、自分の最愛の娘の遺体を掘り起こすことなどしなかったことでしょう。
さいごに
映画【エミリー・ローズ】は、ローズを聖人化し自らを犠牲にしたことを美徳のように描いていましたが、それは映像表現としていささか問題があったのではと感じます。
それはすでにこの話の元となった、アンネリーゼの事件がとても偏った方向に報道されていたことと関連していると考えられます。
90年代の日本では、彼女の事件は面白おかしく編集され「恐怖の悪魔憑き」などの文言が添えられ、悪魔に憑かれた音声テープなどが流されました。
しかし、彼女がなぜそこまで追い込まれて、悪魔に憑かれてしまったのかは知られることはなかったのです。
映画【エミリー・ローズ】は現在アマプラで無料視聴が始まりましたが、視聴してみてなんだかおかしいなと気付いてくれる人がいてくれればと感じました。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
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