ジブリ最新映画「君たちはどう生きるか」は、今までのジブリ映画と毛色が違い、難解で独創的な映画だと言われることが多いです。
前半は、日本の田舎の美しさを描き、時間がゆっくりと流れていくのですが、主人公の眞人が地下世界に降りると物語の進み方は一変してしまいます。
なぜなら、主人公眞人、眞人の母親であるヒミ、ヒミの姉である夏子、そして夏子とヒミの伯父のストーリーを一気に説明しながら場面を展開していくからです。
怒涛のように流れていく場面展開に混乱する人も多かったのではないでしょうか。
本記事では、地下世界の重要人物である大伯父とヒミがなぜ地下世界に囚われなくてはいけなかった理由を考察してみました。
二人が地下世界に囚われている理由がわかると、妊娠中の夏子と、母親を亡くして心が揺らいでいる眞人が、なぜ地下世界に呼ばれたのかがわかりやすくなります。
流れ星が避暑地の裏庭に落ちてしまったことによって、眞人の家族が背負ってしまった運命について解説していきます。
流れ星に魅せられてしまった大伯父
昔、眞人が住んでいる避暑地の裏庭に、流れ星が落ちてきたそうです。
そこで流れ星の奇跡を目の当たりにした、ヒミと夏子の伯父は、奇怪な城を作り不思議な世界の中に永遠に引きこもってしまったのです。
流れ星の影響を一手に引き受けた大伯父は、地下世界と想像の世界を交わらせることに成功し、地下世界の均衡を保つことで地上世界の安寧を守っていました。
永遠と広がる夜空の下で、星を眺めながら、誰も知らない場所で大伯父は世界を見守ってきました。
流れ星の力を使った大伯父
ジブリ映画で流れ星がでてくる印象的なお話は、「ハウルと動く城」でハウルが流れ星を呑み、悪魔と契約をしたエピソードではないでしょうか。
幼く魔法使いの卵だったハウルは、火の悪魔であるカルシファーと契約したことで、心臓を差し出し強い魔法を手に入れました。
君たちはどう生きるかでも、大伯父は落ちてきた流れ星と契約してしまったのです。
流れ星と契約してしまった大伯父は、地上の世界と決別し、奇跡を起こせるようになりましたが地下世界でしか生きることができなくなりました。
大伯父の血族は精神的に揺らぐと地下世界に行けるようになった
眞人の家に奉公する老婆は「神隠しは城の主の血筋にしか起きない」と言いますが、大伯父
が流れ星とした契約は家族に受け継がれてしまったのだと解釈できます。
そのため、地上の世界で不満や欺瞞があった場合、地下の世界に行くことができるのだと思われます。
ヒミとファンタジーの世界
幼かった頃のヒミは、大伯父のことを慕っており、好奇心いっぱいで地上世界に執着がない不安定な年頃でした。
そのため、ヒミは伯父についていき地下世界で過ごしていたことで、1年以上行方不明になっていたことがありました。
地下世界での時間軸は、地上のように一定方向ではなく、城の中にある扉を使えば過去にも未来にも行けるようです。
そして、ヒミが願えばその姿は耐えず変化していき、少女が御伽話で親しんできた不思議の国のアリスや白雪姫などの役柄になりきることができました。
大伯父は、大切な姪であるヒミが地下世界で生き生きと過ごすことで、孤独な世界で唯一の喜びだったのかもしれません。
少女が読むファンタジーの世界の中に閉じこもる
伯父が流れ星の世界に囚われてきたように、ヒミもまた自分の御伽話の世界で生きてきました。
また伯父が作った城の中には、沢山の本がぎっしりと棚に積まれていましたが、地下世界が御伽話の世界と密接に関わっていることを示唆しています。
イザナミ
ヒミの初登場は幻想的で、ワラワラを食べるペリカンを、花火で燃やして火の妖精のようでした。
自分の体を燃やしながら、勢いよく花火を打ち上げる姿は幻想的で美しく、魅入られた人も多かったのではないでしょうか。
ヒミが炎に包まれる姿は、眞人の回想にも頻繁に現れますが、地下世界の中では炎の威力を存分に発揮することができるようです。
炎に常に焼かれ続けるヒミの姿は、古事記のイザナミのような原始的な女性像と重なります。
不思議の国のアリス
ヒミは眞人と再会すると、その体から炎はなくなり、赤い服を着たイギリス風のパフスリーブワンピースを纏った少女になりました。
その姿は不思議の国のアリスにそっくりで、二人が一緒にお茶会をするところなどは、そのストーリーをなぞっているようにもみえます。
また、鷺男に眞人を連れてくるように言ったのは、ヒミであることは明白です。
サギという名前は、並べ替えると「ウサギ」にもみえますし、人間を異世界へ連れてくる存在なのだということがわかります。
白雪姫
ヒミは、眞人をナツコの元へ連れていくという禁忌を犯し、石達に強い衝撃波を撃たれ気を失ってしまいました。
眠ってしまったヒミは、インコたちによってガラスの棺に入れられてしまい、大叔父のところに連れて行かれます。
このようにガラスの棺の中で眠っているヒミは、まるで白雪姫のような姿になります。
そして、棺が運んでいる途中に落ちて蓋が外れると、ヒミは目覚めて伯父に抱きつきます。
死んでもう一度蘇る姿は、まさに白雪姫そのものですね。
また、地下世界で眞人を助けてくれたキリコをはじめ、お守りとしてついてきた使用人のおばあちゃんたちの人数も7人でした。
白雪姫を助けた、小人達の人数にも一致します。
妊娠中の不安定な精神状態のために地下世界へやってきた夏子
夏子は、火事で亡くなってしまったヒミの妹で、眞人の新しい母親です。
彼女は眞人に出会った時は、既に子供を身籠もっておりましたが、きちんと着物を着こなし美しい振る舞いにうっとりさせられた視聴者も多いのではないでしょうか。
しかし、眞人が頭に怪我を負い、いろいろとトラブルに巻き込まれ上手く彼とコミニケーションできないことでナツコは元気をなくしていきます。
また、夏子は眞人の夢の中で弓矢を撃ち地下の怪物たちを退けてから、現実の夏子もつわりがひどくなり寝たきりになってしまいました。
つわりと精神的な疲弊に耐えきれなくなった夏子は、眞人よりも先に地下世界へ行ってしまいます。
変わりゆく自分に耐えられない夏子
眞人は、母親を亡くし新しい環境になれず精神的に不安定になっていましたが、妊娠中の夏子は余裕を見せていても心の中では悩み苦しんでいたのだと思います。
そして、地下世界の城の奥に閉じ籠ってしまい、ヒミも眞人に会わないようにした方が良いと言うほど危ない状態だったのでしょう。
自分の体が赤ちゃんのおかげで変わっていき、これから自分の状況が以前とは全く違った形になることに夏子は恐怖していました。
さらに、眞人は自分のことを受け入れてくれていないことを夏子は痛感しており、彼が部屋に入ってくると初めて本音を口にします。
『来ないで!あなたのことなんて大っ嫌い!』と拒絶する夏子に、今まで誰にも腹を割って話すことができなかった眞人も生身でぶつかっていきます。
ナツコのことを初めて「お母さん」と呼び、必死に夏子を連れ戻そうとする産屋のシーンは、君たちはどう生きるかの見せ場でもあります。
地下世界を終わらせた眞人
眞人は、小説「君たちはどう生きるか」を読んだ後、城の中へ夏子を探しにいきます。
鷺男に連れられ地下世界に降りた眞人は、入ってはいけない門に近づいたり、異分子として地下世界の秩序を乱すことになります。
前述しましたが、ヒミは鷺男を使って眞人に地下世界を救ってもらうために彼を呼び込みました。
ペリカンが飛ばなくなり、インコ帝国が支配している地下世界を、眞人は救うことができるのでしょうか。
眞人が来たことで大伯父は自分の墓を作る
大伯父は、地下世界と自分の存在に限界が近づいていることを悟っていました。
眞人の夢の中にあらかじめ現れ、大きな石のオブジェクトの前で大伯父は眞人が直接会いにきてくれるのを静かに待っていました。
石のオブジェは壮大でありながらも、死を悟った大伯父が作った墓のようにも見えます。
13個目の積み木は積まない
大叔父は、子孫である眞人に13個目の積み木を積んで、地下世界を継続させてほしいと頼みます。
しかし、案の定眞人は、自分には積み木を積む資格はないと言い、一緒に来ていたインコの皇帝は積み木をバラバラに切ってしまいます。
地下世界の解放
積み木が壊されてしまったことで、地下の創造世界は壊れてしまい、インコ皇帝も擬人化された姿から普通の鳥に変わってしまいました。
そして、鳥たちは崩れていく城から一気に飛翔し、地下世界は解放されたことがわかります。
主人公の眞人が地下世界に行ったことで、苦しみの中にいた大伯父、ヒミ、夏子は解放されたのです。
さいごに
地下世界で強い影響力を持った、眞人を含めた4人の登場人物の動向について考察しましたがいかがだったでしょうか。
それぞれの登場人物の想像が、地下世界ではそのまま反映されるので、出てくる人物によって場面がころころ変わっていくので非常にわかりにくいですよね。
本記事が、少しでも映画「君たちはどう生きるか」をわかりやすく解釈する手助けになればと思います。
パンフレットにも、キャラクターの設定や物語の背景について多く触れられなかったので、見た人によって多様な解釈ができて面白いですね。
是非劇場で「君たちはどう生きるか」を鑑賞してみてくださいね。
最後まで読んでれくれてありがとうございました。
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