2006年に公開された人気アニメ【モノノ怪】は、クラウドファンディングを得て、2024年から映画三部作の上映が開始しました。
2024年に公開された【劇場版モノノ怪 唐傘】は、大奥を舞台にした女の愛憎溢れる群像劇になっており、オチがなく難解であったことから多くの視聴者が頭を抱えました。
しかし、2025年3月14日に公開された【劇場版モノノ怪 第二章火鼠】は、時代劇風のセリフ回しでテンポが良く、起承転結がはっきりしておりわかりやすい物語になっていました。
また、前作で謎が多かった御水様についてや、大奥の基本構造、登場人物の思惑などについてより理解が深まりました。
本記事では、【劇場版モノノ怪 第二章火鼠】を鑑賞した感想や、見どころなどについてまとめてみました。
【劇場版モノノ怪 第二章火鼠】あらすじ
前作で唐傘のモノノ怪を祓った薬売りだったが、大奥についているモノノ怪は一つではないと言い、再び大奥の出入り口である「七つ口」にやってきました。
一方大奥の大広間では、御中臈以上の位の女中達が集まり、先日天子の正室である幸子が産んだ姫は誰が育てるのかを話し合っていました。
天子の寵愛を独占し、御中臈まで位まで立身出世してきたフキは「姫は正室である幸子自身が育てるべき」だと提案します。
しかし、姫はフキのライバル的存在である名家勝沼のマツのもとで養育されることが決定しました。
また、大奥の一番の権力者である御年寄の歌川が亡くなってしまったことで、新しい御年寄が老中大友の娘であるボタンが務めることになることが決まります。
ボタンは大奥の規律を守るために、天子の夜伽は一人が独占せず他の御中臈にもチャンスが回ってくるように新しく取り決めました。
この取り決めに精神的負担を感じたフキは、会議中に嘔吐してしまい、同時に妊娠が発覚します。
もしもフキが王子を産んでしまったら、熾烈な権力争いが起こってしまうことを老中大友は危惧し、フキの父親である時田良路を呼び出しました。
火種となってしまったフキを消すために、フキとお腹の子供を狙って刺客が送られますが、同時に人が生きたまま焼かれるという怪現象が起きるようになり…。
美しく見やすい絵作り
先日、テレビ版モノノ怪シリーズを再鑑賞したのですが、劇場版モノノ怪はカラーリングも増えて以前よりも見やすくなったと感じます。
特に今回の火鼠については、モノノ怪である火鼠が高速で移動するのですが、スピード感はあるのに画面酔いはすることなく楽しめたのが良かったです。
モノノ怪の登場人物には輪郭線がなく、顔の凹凸による影もない浮世絵のような人物像ですが、映画シリーズになってからより人物の絵が見やすくなったように思います。
爪の色も登場人物の個性に合わせて、マニキュアが塗られており、一つ一つの色彩が悪目立ちすることなく調和しています。

【鵺】を連想させる会話劇
【火鼠】の冒頭は、チェスのような形の駒で、年老いた侍たちが将棋を打ち合いながら大奥について話し合っているところから始まります。
男性たちが集まって、何やら駆け引きのありそうな会話をしていることから、テレビシリーズの【鵺】を思い出しました。
このシーンは、大御所声優が迫力ある演技を見せており、前半のみどころの一つになっています。
大奥を取り締まる老中の大友は堀内賢雄さん、フキの権威を借りて武家入りを果たした気弱な男である時田はチョーさん、大奥の調整役の藤巻を堀川りょうさんなど大変豪華なキャスティングです。
特に堀川りょうさんは、時代劇の経験もあったそうで、アフレコでセリフの一部を変更したそうで、よりリアルで緊迫感のある会話劇を楽しめたと感じました。



【座敷童子】との比較
老中たちの会話が終わると、舞台は唐傘と同じように大奥に移り、フキの妊娠が発覚したことにより大奥の火種を消そうと刺客が次々とフキを襲います。
このように妊娠した女性を刺客が襲う構成は、テレビ版モノノ怪の【座敷童子】に似ているように感じました。
【座敷童子】では、使用人の志乃が勤め先の若旦那との子供をみごもり、一人で刺客から逃れようとします。
しかし【火鼠】の方では、フキの世話役であるツユがフキと一緒に赤ちゃんを守ろうとしてくれます。
ツユは以前スズという御中臈の世話役をした過去があり、スズが受けた苦痛をフキにしてほしくないという深い優しさを感じました。
また主人公のフキの変化についても、繊細に描かれているのが良かったです。
天子との情事で余裕たっぷりに接する姿も、ボタンの采配で自分の立場が危うくなった時の焦り具合、そして赤子を受け入れた後の慈愛に満ちた眼差しは見事だと感じました。
フキ役の日笠陽子さんの演技も素晴らしいですが、やはりモノノ怪シリーズでは女性の醜さや美しさを描くのが上手いなと感じました。

唐傘で謎だったものが解明される
前作の【唐傘】については、謎が多いのにオチがつかず、難解な構成で視聴者から評価が良くなかったですが、【火鼠】ではいくつかの謎が解明されてほっとしました。
【唐傘】は、モノノ怪シリーズの不思議な怖さは感じましたが、全てが未完のまま終わってしまったので、ちゃんと三部作通して見ることで一つの話になるんだと安心しました。
御水様の謎
唐傘では、大奥に仕える女性達は必ず三角の升に入った水を飲む習慣がありましたが、この水って一体なんなんだろうとずっと思っていました。
しかし【火鼠】で、ボタンが御祐筆に昇格したアサに水を持ってきたことから、あの水は大奥で任される「仕事」だったんだとわかりました。
そのためカメは、根本的に大奥で任される仕事が性に合っていなかったため、水を美味しいと思うことができなかったのだとわかりました。
アサが途中から水を飲むことに抵抗がなくなったのは、大奥の仕事のやりがいを実感するようになり、適正に合っていたことだったのだと思います。
天子との夜伽をする前も、御中臈達は一斉に水を飲んでいましたが、これからする仕事を受け入れるために皆水を飲んでいることがやっとわかりました。
エンディングの謎
劇場版モノノ怪のエンディングは、中央に祠のような建物があり周りに三つの絵があり、それぞれヒモに繋がれていてぐるぐると周りを回転している不思議なものでした。
あの祠は何なのか、三つの絵は何なのか、そもそもこの場所はどこなのか、いつまでも終わらないエンディングを見ながら考えていました。
しかし、劇場版火鼠では、このエンディングの場所がとうとうでてきました。
唐傘でもちらっと登場した、御水様を管理する司祭だという溝呂木という男が、祠からヒモが1本切れているのをじっと見つめているシーンがありました。
あのエンディングにも意味があったんだと気付き、あのぐるぐる回る時間は無駄ではなかったことに安心しました。
火鼠のエンディングでは、とうとうヒモは一本しか残っていなかったので、次の蛇神でこの謎が解けると思うと次作の上映が待ちきれません。
さいごに
【劇場版モノノ怪 火鼠】の見どころや感想についてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
【唐傘】よりもわかりやすい話になっており、過去作へのオマージュも感じられ、モノノ怪を見たことがない人でも入りやすい話になっています。
また、女性が子供を守る強さや、権力にしがみつく愚かさなどもよく描写してくれていたと感じます。
独特の映像や動きが美しいので、映画館で鑑賞することを強くお薦めいたします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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