2023年9月15日、アニメ制作会社MAPPAの初めてのオリジナル作品として『アリスとテレスのまぼろし工場』が公開されました。
監督は青春アニメを瑞々しい感性で描く岡田麿里さんで、『あの花』や『心が叫びたがっているんだ』を大ヒットに導いて来ました。
さらにMAPPAの卓越した映像美は見事で、空がひび割れる光景は、まさに夢をみているようでした。
本記事では、実際に映画を見て来た感想や、簡単なあらすじや見どころなどについてまとめてみました。
現実から遮断されてしまった街の中で、主人公の正宗と睦実の心が近づいてく様子に注目です。
【アリスとテレスのまぼろし工場】のあらすじ
14歳の冬、菊入正宗は友達と一緒にラジオを聴き、他愛のない話をしながら受験勉強に励んでいました。
彼が住んでいる町は見伏町といい、炭鉱に支えられて来た街でしたが、その夜突然製鉄所が爆発を起こしました。
正宗達は、空にひび割れができたのを見て驚きましたが、しばらくすると爆発も空のひび割れも何もなかったようになくなりました。
しかしそれ以来、見伏町から外に出る道は全て遮断され、時間は止まってしまい、町の人々は同じ冬を何度も何度も繰り返すようになってしまいました。
そして、今の自分を見失わないようにと「自分確認票」という書類を書かなくてはいけなくなり、正宗は自分の夢や気持ちに蓋をし日常を送っていました。
正宗の「自分確認票」の「嫌いな人」の欄には、佐上睦実の名前が書かれており、正宗はそれをクラスに提出できないままでいました。
睦実は度々正宗にちょっかいをだしていましたが、ある日「退屈、根こそぎ吹っ飛んでっちゃうようなの、見せてあげようか?」と正宗を製鉄所の立ち入り禁止区域の第五高炉に連れていきます。
そこには、野生のような立ち振る舞いをする謎の少女がおり、正宗は驚きあわてます。
時間が止まった町で、ただ一人成長していく彼女を「五実」と正宗は名付け、世界は大きな変化を遂げることになります。
岡田麿里さんが描く青春群像劇が圧巻
『アリスとテレスのまぼろし工場』の監督・脚本は岡田麿里さんが担当しており、少年と少女の心情を丁寧に描いています。
見伏町では、住人たちの心に変化が生じることを危惧しており、正宗は自分の思いが睦実に近づいていくことを必死に防ごうとします。
しかし、五実と出会ったことで、睦実との距離が急激に近づいて来ます。
政宗だけでなく、クラスメイトの心にも変化が現れ、五実を通して皆の心が変わっていくのがわかりました。
声優さんの演技が最高
映画「アリスとテレスのまぼろし工場」の声優は、主人公役の榎木淳弥さんを始め、世界観を壊さない迫力のある演技を魅せてくれました。
美しい映像に合わせて、10代特有の無邪気さや緊張感を、繊細に演じてくれていました。
榎木淳弥さん演じる正宗
主人公の正宗は、友達と波長を合わせたり、クラスの平和を乱さないようにクールに振る舞っています。
そんな正宗の心を乱すように、睦実は正宗が動揺するような振る舞いをしますが、自分の欲望に気付きはっとする瞬間を榎木さんは極めて自然に演じてくれていました。
また、変化を禁じられている町であっても、イラストレーターになるという夢を心に秘め、機会があればスケッチに励むという努力家な面もあります。
榎木さんは、現在『呪術廻戦』の虎杖悠仁など、政宗とはタイプの違うキャラクターを演じていますが、演技の引き出しの多さに驚かされました。
睦実の脆さと強かさを見事に演じた上田麗奈
正宗が気になっている、佐上睦実は、見伏町の有力者である佐上家の連れ子という複雑な家庭環境の少女でした。
睦実も正宗と同じように、表面上はおとなしい少女を演じていますが、クラスメイトの上履きを隠したり正宗に下着を見せたり大胆な一面を隠しています。
平常心を装いながらも、正宗の心が他の女子に向くことを強く拒否する感情は、上田さん以外の声優ではなかなか演じられなかったことでしょう。
特に、正宗が五実の前で泣いてしまい、その涙を五実が舐めている様子をみた睦実が、激昂する声は鬼気迫るものでした。
無垢な五実に自我が産まれていく過程を見事に演じた久野美咲
幼い少女を演じることが多い久野さんですが、心の傷を負い成長することを止めてしまった五実を見事に演じ切ってくれました。
見伏町の住人や、睦実にまでも相手にされなかった五実ですが、それでも心の中の輝きを失わず電車の上を飛んだり跳ねたり無邪気な笑い声に癒されました。
そして、無垢な心を持っていた五実が、次第に正宗に惹かれていき感情を爆発させる叫び声は圧巻でした。
憎めない佐上を癖たっぷりに演じた佐藤せつじ
見伏町の神主として、町を仕切っている佐上は普通なら悪役だと思いますが、佐藤さんが演じることで憎めない役柄になっていてよかったです。
彼の願いは、ただこの幻が壊れないように街が変化しないように統率することで、その純粋さが良かったのかもしれません。
佐上は挙動不審で上の空ですが、拡声器を握ると意外と力のあるスピーチを見せ、住人たちもそこまでいうなら仕方がないと彼の言うことに従って来ました。
空が割れる美しさ
昨今のアニメーションは、『すずめの戸締り』や『バイオレット・エバーガーデン』空の描写に特に力を入れている作品が多いと感じます。
しかし『アリスとテレスのまぼろし工場』では、あえて空にひび割れが生じる演出が施され、そのひび割れから現実の景色が見えて来ます。
しかし、幻の中に住む正宗たちは、現実に近づけば近づくほど体が透明になり存在があやふやになっていきます。
圧倒的な映像美を魅せると同時に、幻の虚しさを同時に表現する手法は、今までなかったのではと感じます。
MAPPA初のオリジナル作品は成功?
『アリスとテレスのまぼろし工場』は、MAPPAで初めてのオリジナル作品となりましたが、脚本・映像・キャラクターの演技全てが上手くまとまっていました。
今回レイトショーで劇場を訪れましたが、何人か観客も入っていました。
X(旧:Twitter)では、絶賛と酷評と評価が別れますが、見る人を選ぶ映画かもしれません。
さいごに
映画『アリスとテレスのまぼろし工場』の感想や、見どころについてまとめてきましたがいがだったでしょうか。
五実の魂を震わせるような叫び声や、空の割れる迫力は、是非映画館で多くの人に見てほしいと感じました。
2023年に見たアニメーション映画の中でも、特に満足できた作品でした。
お時間があれば映画館に足を運んでみてくださいね。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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