2023年2月6日、トルコ・シリアで大地震が発生し、死者5万2000人を超える大災害が起こりました。
それから、同年に映画「金の国 水の国」を視聴した影響もあるのですが、今までそこまで興味がなかった中東アジアについて知りたいと考えるようになりました。
特に、トルコやシリア、イランなどで深く信仰されているイスラム教についても知ることができないかと考えるようになりました。
本記事では、漫画を通してイスラム教を信じる人々がどのように考え生きているのか、調査しまとめてみました。
また、トルコ・シリア大地震で犠牲になった方々のご冥福をお祈りいたします。
乙嫁語り
乙嫁語りとは、19世紀の中東アジアに住む遊牧民カルルクと、姉さん女房アミルの日常を描いた物語です。
二人の家に居候していたイギリス人スミスは、友人に会いに行くためにアンカラに向かいますが、その道中でペルシアに立ち寄りました。
手厚い歓迎を受けるスミスと従者のアリは、美しい壁模様に目を奪われ、豪華な食事を振る舞われました。
そして風呂場にいく途中、スミスは黒い布を被って外出する女性達に目を奪われます。
家の主人はスミスに手厚くもてなしてくれましたが、奥さんがスミス達の前に現れることは最後までありませんでした。
本巻は、スミスが会うことができなかった、ペルシアで宿泊した豪邸の奥様アニスのお話です。
姉妹妻ってマジ?
乙嫁語り7巻の主人公的な立ち位置にいるアニスは、優しい夫と可愛い息子、豪勢な屋敷に住み裕福な暮らしを送っていました。
しかし、どこか満ち足りた気分になれないというアニスに、付き人のマーフは「姉妹妻を持つべきだ」と言いアニスを浴場(ハマム)に誘います。
そこでアニスは、自分とは正反対のふくよかなシーリーンという女性に惹かれ、とうとう姉妹妻の契りを交わしますが
姉妹妻ってなんだよ!?
全くそのような文化に触れてこなかった日本人としては、まずそこを突っ込みたくなりますよね。
作中では、姉妹妻とは結婚して子供を持つ女性が、心から信頼して悩みを打ち解けられる一生の親友だと説明されています。
相手の嫌がることは絶対にしない、お互い以上に親しい関係を持たないそうで、まぁ強いていえば強烈に仲が良く絆の強いママ友と呼べばいいのでしょうか。
しかし、イラクなどでは女性は黒マントを被り、人間関係って希薄になりそうな部分って多そうですよね。
より強い繋がりを求めるためにこのような関係がなされるようになったのでしょうか。
しかも、姉妹妻の結婚式は、仲人も必要となり人を集めて派手に行います。
お茶菓子が振る舞われたり、みんな歌ったり踊ったりそれなりに派手に行い、余裕があればそのまま新婚旅行などにも行くこともあります。
また、夫婦のようにどちらかが亡くなった時、遺産などを相続する例もあるそうです。
人助けを重要とする人たち
アニスとシーリーンの関係は、この姉妹妻という文化を知らない人からでも、なんだかお似合いで応援したくなるような和やかさがありました。
しかし、結婚式が終わったそのとき、シーリーンのご主人が亡くなってしまったことが発覚しました。
もともと裕福ではなかったシーリーンの家は、大黒柱を失い路頭に迷います。
生活費は亡くなったご主人が稼いでおり、十分な蓄えはなく結婚した時の持参金もあまり多くなかったシーリーンは、どうすればいいかわからないと泣きました。
そんな時、アニスが出した答えは意外なものでした。
私…頼んでみようと思うの
私の夫に
シーリーンあなたをふたりめの奥さんにしてもらえないかって
引用:森薫「乙嫁語り」株式会社KADOKAWA
アニスの夫は、富裕層でありながらもアニスを深く愛していたため、あえて他の妻を娶ろうとしていませんでした。
そしてアニスも、主人が他に奥さんができるのは嫌だと話していながらも、身寄りがないシーリーンを助けてあげるために夫にこの提案をしました。
アニスの夫も、二つ返事でシーリーンを妻に娶ることを了承します。
客人を手厚くもてなすだけでなく、路頭に迷ってしまった女性がいたら、結婚して家族共々保護してあげるという考え方はとても理性的で美しいですね。
日本には一夫多妻制という考え方がないので、このような展開は予想できなかったという読者も多かったのではないでしょうか。
同じように一夫一妻制のイギリス出身のスミスも、主人の下した決断に驚きながらも感心した様子でした。
夢の雫、黄金の鳥籠
「夢の雫、黄金の鳥籠」は、「天は赤い川のほとり」でお馴染みの篠原千絵さんの漫画です。
舞台は16世紀初頭、北のルテニアという山間の貧しい国に生まれたサーシャは、タタールの襲撃にあい奴隷として売られることになってしまいました。
「自由になりたい」と嘆くサーシャに、サーシャを買い取ったギリシャの商人マテウスは「まずは学問と教養を身につけつけるように」と言います。
サーシャは水を得た魚のように、教養をや知識を身につけ、新しい言葉と礼儀作法を習得し立派な淑女になりました。
イブラヒム(マテウス)への淡い思いを歌に乗せるサーシャでしたが、その願いは叶わず、オスマン帝国皇帝のスレイマン1世の後宮(ハレム)に献上されることになってしまいました。
能力重視!異邦人でもスピード出世
サーシャは、ヒュッレム(朗らかな声)という新しい名前を授けられ、陰謀渦巻く大帝国イスタンブルの後宮(ハレム)に嫁いできました。
ヒュッレムは、その美しい声で皇帝スレイマン1世に気に入られます。
そして、皇帝から財宝やアクセサリーではなく、図書館の貸切を希望し教師をつけてもらい様々な知識を深めていきました。
スレイマンは、そんな彼女をを気に入り、ヒュッレムは妾(ジャリエ)から側室(イクバル)へと順調に出世していきました。
また、ヒュッレムの主人だったイブラヒムも、もともとは奴隷でしたが優れた才覚を持ち、小姓頭まで出世し皇帝スレイマンの相談役として地位を確立していました。
このように、例え出身が外国であったとしても、能力があれば出世できる体制がイスタンブルでは整っていたようです。
また、側室王妃達も外国や奴隷出身の女性が多く、後宮の宦官を黒人が務めるなど、異邦人に積極的に仕事の場を与えてくれていたのではと考えられます。
しかし、ヒュッレムをよく思わない第一夫人であるギュルバハルは、ヒュッレムの食べ物に毒を入れたり、何度も事故を装って暗殺を企てます。
ヒュッレムは何度も窮地に立たされますが、その頭の良さと機転で出世していき、政治にも関わるようになります。
不貞は死に値する
ヒュッレムとイブラヒムは、惹かれ合いながらも後宮の妾と臣下が結ばれることができないとわかっていました。
しかし、イブラヒムが海に落とされたヒュッレムを助けて別邸に連れて行った時、とうとう二人は禁断の関係を持ってしまいます。
夜が明けて、イブラヒムが一番最初にしたことは、二人の関係を知ってしまった部下を殺すことでした。
イブラヒム達の部下達は、ヒュッレムを助ける手助けもしてくれて、相当信頼のおける部下だったと思われますがまさかイブラヒム自身の手で殺してしまうとは予想外でした。
禁断の二人の愛は今後どうなっていくのか気になりますね。
金の国 水の国
2023年1月に映画化した本作ですが、公開直後イスラム圏の人々から相当なバッシングを受けました。
その理由は、黒いマントで全身が覆われた登場人物ライララが、爆弾を持っていたことが原因でした。
しかし、実際にはライララが持っていたものは煙玉で、王女のサーラとナランバヤルを助けるために目眩しとして投げたものでした。
ムスリムにとっては、テロや爆弾のイメージと結びつけられることは、たとえアニメの中であってもあってはならないことなんですね。
異国の奴隷
「金の国水の国」は、架空のA国という国の王女サーラと、B国の学者ナランバヤルが、いがみ合う二つの国の橋渡しになっていくというお話です。
漫画では、王の肖像画をナランバヤルがみるシーンがあるのですが、そこにスレイマンの名前がでてくるので、A国のモデルはイスタンブルなのではないかと推測できます。
また「夢の雫、黄金の鳥籠」と同じように、北の国から連れてこられた、ムーンライト=サラディーンが王女の愛人として左大臣に任命されています。
ヒジャブを外したサーラ
イスタンブルがモデルであるA国では、王女サーラを初め、外出する時は頭に布を巻いている描写が多いです。
しかしサーラは、B国に来た際には大切なヒジャブを手放してしまうという、イスラム教の女性にとっては信じられない行動をとります。
もしかしたら、ヒジャブを外すことによって、B国に嫁いだ嫁を演じるためにA国の王女らしさを捨てようと思ったのかもしれません。
本作ではあえて国名を出さない理由は、イスラム女性がヒジャブを子供の人形の布団にしてしまったら、ものすごいバッシングをうけるのではという配慮からなのかとも感じました。
天幕のジャードゥーガル
「天幕のジャードゥーガル」は、西暦1213年のイランの物語で、奴隷として買われ数奇な運命を辿ったファーティマという女性が主人公です。
奴隷の頃はシタラ(星)と呼ばれていたファーティマは、ある学者の家庭に買われることになりました。
これからの自分の人生に嘆き、脱走を図ろうとするシタラに、村一番の秀才だと名高いムハンマドからこう言われます。
勉強して賢くなれば
どんなに困ったことが起きたって
何をすれば一番いいかわかるんだ
それは絶対に悪いことじゃない
引用:トマトスープ「天幕のジャードゥーガル」秋田書店
このことでシタラは自分の運命を受け入れ、勉学に励み、ムハンマドのいる学者一家の家で働くことになりました。
奴隷が教養を身につけ主人を楽しませる
奴隷という言葉を聞くと、教養や自由はなくひたすら働かされているイメージがありますが、イスラム教徒は奴隷であろうと誰であろうと知を求めることは重要なのだそうです。
そのため幼いシタラも、クルアーン(コーラン)の読誦を始め、発音や息継ぎの場所まで正確に覚えていきました。
やがてシタラは字も読めるようになり、亡くなった学者一家の主人が残した貴重な写本を、女主人と読み合わせするようになります。
場合によっては釈放されることも?
奴隷には、いろいろな仕事があり、家事や掃除などをさまざまな仕事に従事するようです。
その中でも、教養は主人を楽しませるのに重要な区分であったそうです。
深い教養を身につけると、場合によっては、奴隷から解放されることもあったそうです。
しかし、奴隷が開放されるということは極めて稀な事例だったそうです。
奴隷のほうが責任を負う能力がない?
奴隷という身分は、主人のいうことは絶対で、自由意志がないようにみえます。
しかしそのぶん責任能力が低く、例えば犯罪を犯してしまった場合は、同じ罪でも奴隷の受ける罰は自由人よりも軽いそうです。
同じ人間なのに、受ける罰の重さが違うという価値観は、なかなか日本にはないものだなと感じました。
まるで家族のような奴隷
遊牧民達が、トゥースの襲撃に来た際に、シタラは女主人とともに地下室に避難しました。
しかし、いつまで経っても迎えは来ず、遊牧民達はシタラ達をみつけ大切な写本を盗もうとしました。
シタラが、本を返すように言うと、遊牧民達は迷わずシタラを殺そうとしました。
すると、女主人は咄嗟にシタラを庇い、刀で斬りつけられてしまいました。
なんと女主人は事切れる前に、シタラのことを娘と呼び、奴隷であっても深く彼女のことを愛していたことがわかりました。
とても仲睦まじく暮らしていたシタラと学者一家でしたが、そのささやかな幸せは、モンゴルから来た遊牧民達によって踏み躙られてしまったのです。
シタラは、モンゴルへの恨みを胸に、女主人の名前だったファーティマを名乗るようになりました。
果たして彼女の運命とは…。
さいごに
イスラム教のイメージは、9.11の影響で聖戦(ジハード)など過激思想と勘違いされがちなことが多いいです。
しかし、イスラム教の最も重要な教えは、人助けを大切にし勉強に励むことを推奨する宗教だということがわかりました。
本年、痛ましい災害に見舞われてしまいましたが、一刻も早い復興を願っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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