日本とフランスが共同制作し、カンヌ映画祭にも出品された【化け猫あんずちゃん】は、2024年7月19日に全国公開されました。
実際に生身の人間が演技する映像を、そのままアニメにするロトスコープという技法は、2013年にアニメ化された『悪の華』を視聴して正直苦手意識がありました。
テンポが悪かったり、中弛みする場面があったらどうしようと不安がありましたが、予想以上の面白さに驚き感動しました。
生身の人間の良さを、そのままアニメに反映し、港町の美しい背景がキャラクター達を見守っていました。
本記事では、人間と妖怪達の温かい交流を描く【化け猫あんずちゃん】のみどころや実際に映画館でみてきた感想などについてまとめてみました。
化け猫あんずちゃんのあらすじ
小学校5年生のかりんは、3年前に 母親を亡くしてから、金遣いが荒くだらしない哲也と一緒に過ごしていましたが、ある日哲也の実家へ里帰りすることになります。
久しぶりにお寺の和尚である父親に再会した哲也は、お金を貸して欲しいと頼みますが「出て行け!」と断られてしまいました。
いよいよ首が回らなくなった哲也は、「母さんの命日までには戻る」と言い残し、かりんを草成寺に置いていってしまいます。
途方にくれるかりんでしたが、そこに原付に乗った化け猫かりんちゃんが、お寺に戻ってきました。
おしょうさんがいうには、あんずちゃんは普通の猫だったが30年生きた後、化け猫になってしまったということをききました。
37歳のあんずちゃんは、普通の人間のように原付に乗り、時々あん摩の仕事をしたり寺を掃除して、気ままに過ごしていました。
そして、一人残されたしまったかりんちゃんを気にかけ、おしょうさんはあんずちゃんにかりんの世話を頼みますが…。
ロトスコープについて
公式ホームページhttps://ghostcat-anzu.jp
先述しましたが、【化け猫あんずちゃん】では、実際の人間が演技した映像をもとにアニメーションを作っています。
そのため、あんずちゃん役である森山未來さんは、猫耳をつけ首から携帯電話のピッチをさげて撮影にのぞんでいます。
毛繕いなどの猫のような動きも、実際に森山未來さんが演じてから、動きと演者の魅力を引き立てるアニメーションが作られています。
さらに、実写映画の臨場感を大切にするために、撮影中に録音されたセリフはそのままアニメで使われております。
演者の生の音声と動きがしっかりマッチしていて、一つ一つのシーンが温かみと親しみを感じます。
作中で主役のかりんを演じる五藤希空ちゃんが、逆立ちをするシーンなどもあるのですが、壁すれすれにつく足は実写を元にしたんだろうなと感じられます。
声の感情の掛け方や、不機嫌に舌打ちするをする仕草、途方にくれて空を見つめる表情などが良かったなと感じます。
また、かりんの父親である哲也役の青木崇高さんの演技もとてもよく、最近邦画で活躍している男優はすごいなと感じました。
また、個性あふれる森に住む妖怪達や、地獄の住人達もそのキャラクターに合った衣装や小道具を身につけて撮影をしています。
一見すると、なんだか変なコスプレをしているように見えますが、アニメになると一人一人の顔の特徴や、動きなどをしっかり捉えてアニメにしているのでとても感心させられます。
特に、地獄から鬼や餓鬼達、閻魔大王が続々と出てくるシーンはとても迫力があってワクワク感が半端なかったです。
閻魔大王役の宇野翔平さんは、不思議な威圧感があってすごかったです。
全体を通して【化け猫あんずちゃん】の役者さん達は、とても演技が上手で、みていて飽きなかったことがよかったです。
演技指導については、【リンダリンダ】や【カラオケ行こ!】を監督した、山下敦弘さんが監修しています。
カメラワークがいい
さらに【化け猫あんずちゃん】を見ていて、良い臨場感を味わえたのは、実写映画にはなかなかないカメラワークにあったのではと思います。
2013年に公開されたロトスコープアニメ【悪の華】は、カメラワークが凡庸で、邦画の退屈さをそのままアニメにしたようなテンポでした。
開始後10分後には、もう飽きてしまうほど、キャラクターにも話にも没入することができませんでした。
しかし、【化け猫あんずちゃん】のカメラワークは迫力があり、特にかりんが母親との過去を回想するシーンや地獄から現世に戻ってくるシーンなどはスピード感がありました。
これは、ロトスコープではなくアニメの表現なのかもしれないですが、ここぞというときにアニメーションの使い方が上手いなと感じました。
アニメの作りがとても丁寧
映画【化け猫あんずちゃん】はmiyu productionが背景、シンエイ動画がキャラクターデザイン、動きを担当しています。
実写映画をアニメに投影し、さらに背景とキャラクターデザインを、二つのアニメ会社が担当しているのはかなりつくりこみが丁寧だといえるのではないでしょうか。
miyu productionが描く港町の風景は、とても清々しく瑞々しい色使いで、美しさが際立っています。
作中で、かりんが草成寺に向かうために、何度もあんずの木の前を通るのですが、そのあんずの木や実がとても鮮やかで綺麗で、この木をからあんずちゃんの名前はとられたのではと思ってしまいました。
美しい背景と、久野遙子さんが監修した生身の人間の動きを投影したキャラクターを生み出した本作は、カンヌ映画祭に自信をもって出展できる作品だと感じました。
人間も妖怪も同じ業をもっている
【化け猫あんずちゃん】は、映像だけでなくストーリーについても、しっかり作り込んでいたと感じます。
本作は、いましろたかしさんがコミックボンボンで連載していた原作漫画を映画化したものですが、一話読切型の漫画を上手く一つの映画として作り上げています。
キャラクターの設定などは一部変えられていますが、漫画版での化け猫のあんずちゃんが人間と同じように緩く過ごしているという世界観は、そのまま映画に反映されています。
かりんとあんずちゃん
映画【化け猫あんずちゃん】の主人公であるかりんの心情表現は、本作の一番の見どころであると思います。
父親の哲也が草成寺を去ろうとするとき、かりんは当たり前に自分の財布の中のお金を父親に渡します。
父親だけでなく、町の子供である井上や林にも喫茶店で飲み物を奢り、東京でも意中の男の子のぶんの会計を払ってあげています。
お金がないはずなのに、自分に注目を集めるためにお金を使ってしまうかりんは、哲也の失敗を見てきているはずなのに、むしろ同じように浪費家の道を歩んでしまっています。
しかし、実は森に住む妖怪達でさえも、宝くじで当てたお金で高級車を買ってしまったり、あんずもかりんのぶんのお小遣いをパチンコに使ってしまったりしています。
境遇が不幸だからとか、特別な力を持っていることに関わらず、どんな人でもお金という業に囚われてしまっていることがわかります。
物語の最後に、あんずちゃんはかりんのお金を使ってしまったことを打ち明けますが、かりんはそんなあんずを「別にいいよ」と許してあげます。
自分のことを棚に上げて、自分だけが特別だと思い他人を見下していたかりんが、他人の過ちを許せたことでひとつ大人になったことに感動しました。
さいごに
【化け猫あんずちゃん】のみどころについてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
本作は小さな子供から、大人まで楽しむことができるとても良い映画だと思います。
ぜひ一度鑑賞することをおすすめいたします。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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