【チ。-地球の運動について-】は、中世ヨーロッパで地動説の研究を命懸けで行う人達の奮闘を描いています。
地動説を研究するメンバーに加わった、まだ少女でありながらも優れた頭脳と発想力を持ったヨレンタですが、なぜ彼女が女性だからと言って差別を受けてきたのか理解できない人も多いのではないでしょうか。
実際に聖書で人が作られたとき、女性であるエヴァはアダムの肋骨から作られ、蛇からの誘惑をかけられたエヴァはアダムよりも先に知恵の実を食べてしまいました。
しかし、それだけで女性は中世の時代になっても、差別を受けることになってしまった理由はなぜなのでしょうか。
そもそも聖書の中で男性と女性の役割は全く異なるものであり、時には大切にされ、時には子供を産み感謝されてきたという存在であるはずです。
本記事では、なぜ中世の女性が差別されてきて、さらに魔女狩りや異端審問の対象になってきたかを調べてまとめてみました。
聖書の中では、はっきりと女性は差別される存在だと言われている箇所はありませんが、一体誰が女性を差別するように誘導していったのでしょうか。
古代から存在する魔女という存在
もともと魔女と言われる人たちは、昔から尊ばれる存在であって、作物の豊穣を祈ったり薬草の知識を持っていたり村の知恵袋のような存在であったと言われています。
時には教会と共存関係であったり、神父たちが魔女から知恵を貸してもらったり、魔女が人々から迫害されそうになった時に庇った例もあったと言います。
しかし、誰かを呪術で殺してしまったり不妊にしてしまったり、飢饉を起こす魔女は古代から処刑の対象になってきたのも事実です。

【チ。-地球の運動について-】の第七集のダミアン神父が話していた通り、魔女は権力者や聖職者と共存関係にあったこともありました。
ダミアン神父が語った人物は実際に存在しており、9世紀のフランスの大司教のアルバゴールは、魔女の嫌疑がかかった女性を石打ちの刑から救っています。
400年前にローマ法王になった呪術師は、おそらくフランス人初の教皇となったジェルベールのことで、優れた科学知識も持ち合わせていたそうです。
民衆のために知識を提供し、役に立つと認知された魔女や呪術師はむしろ尊ばれてきたことがわかります。
ヨハネス22世が魔女裁判の取り締まりを強化
しかし13世紀になると、カトリックとは異なる思想を持ったアルビ派と呼ばれる人々がフランスで現れるようになり、異端者を弾圧する十字軍が結成されるようになります。
そして、異端審問を行うドミニコ修道会士という修道会が設立されます。
【チ。-地球の運動について-】で異端審問を行なっている、ノヴァク達のような修道士の集団もこのような修道会にをモデルにして作られたのかもしれないですね。
さらに、ヨハネス22世によって魔女裁判や異端審問の取り締まりが強化され、拷問が許可されるようになりました。
実際に【チ。-地球の運動について-】の中でも、ノヴァク達が黒ミサに出席したと女性を拷問するシーンがあります。
本作で拷問を受けていた女性も、ただ病気に効くと言われている薬草を採集しにいっただけで、親指を潰されるという責め苦を負わされていました。

このように魔女と断定されてしまうきっかけのほとんどは、噂話や人伝に嫌疑をかけられてしまった人たちで、疑いをかけられてしまった場合まず逃げることはできなかったそうです。
時には男性も、神父や学者村人、ただ薬草をとりにいっただけでも魔女と断定されてしまったそうです。
15世紀のベストセラー魔女の槌
魔女に対する嫌悪感が植え付けられてしまった原因としては、15世紀に多く読まれた『魔女の槌』と呼ばれる書籍の存在が大きかったのではないかと思います。
この書籍は、ヤーコプ・シュプレンゲルとハインリヒ・クラーメルというドミニコ会士に属する神学者たちによって書かれました。
「魔女の槌」では魔女はカトリック教徒にとっては敵となる存在で、夜は黒ミサに出席し悪魔と通じて、生まれた赤子を悪魔に捧げるなどという内容が綴られていました。
また、本書では『女性は信仰が少ない』と書かれている箇所もあり、女性軽視へのきっかけにもなったのではないかと推測されます。
そして、例え良いことを行なっていた魔女でさえも、「全ての魔女は火炙りにされるべき」という信条が確立され、多くの罪のない人々の命が奪われていきました。
さらに、『魔女の槌』には魔女に対する拷問の方法についても詳しく書かれており、魔女裁判官の必需品としてポケット版の持ち運べる本まで発行されていました。
この『魔女の槌』に書いてある情報を元に、魔女裁判官や異端審問官達の頭の中には「魔女は裁かれなければならないという」信念が根付き、拷問をする過程で「魔女である確証」を得ようとします。
筆舌に尽くしがたい拷問を受けている中、この苦しみから逃れたい一心で、被疑者は「魔女と通じていた」「あの恐ろしい黒ミサに出席していた」という証言をしてしまいます。
その言葉がさらに証拠として本に書き綴られ、またそれを読んだ民衆達の中に魔女に対する恐怖が根付き、噂として増幅していったのかもしれません。
【チ。-地球の運動について-】では、バデーニは地動説がばれてしまった時は女性であるヨレンタを魔女として濡れ衣をきせればいいといいますが、このような思想が根付いてしまったのは「魔女の槌」のせいかもしれません。

女は黙って学ぶべき?と聖書で書かれているって本当?
【チ。-地球の運動について-】でも、ピャスト伯は「魔女の槌」で語られていたように『悪魔が取り憑くのは女性が多い』とヨレンタに話しています。
また、その後聖書の引用からも『女性は黙って学ぶべき』だと話していますが、これはコリント人への第一の手紙14章34節の引用です。

コリント人への第一の手紙14章34節
コリント人への第一・第二の手紙を書いたのは、パウロという人物で、もともとはユダヤ教の律法学者でキリスト教を否定する人物でした。
しかし、神の声を聞いたパウロは目が見えなくなってしまい、キリスト教に改宗し心から祈ったことで、目から鱗が落ちその後はローマで積極的に布教を行なったそうです。
コリント人への第一の手紙14章でも、神についてどのように語れば良いのかが綴られていますが、34節では『女性は黙って学ぶべき』という言葉の後には『もしも何か学びたかったら夫に聞きなさい』と続いています。
突発的に言ってしまった言葉が、女性自身を傷つけないように、一度夫に話してみることで間違った発言をしないように人前で恥をかかないように守ってくれているようにも見えます。
15世紀に、『魔女の槌』によって女性に対する偏見が根付いてしまいましたが、女性を噂や中傷から守るためにこのような聖句が作られたのではないでしょうか。
ピャスト伯は上記の発言後に、『今の我々に(聖書)の正しい読み方ができているかは、わからない』と話しています。
聖句は一部分だけ切り取って解釈することは、危険な行為なのかもしれません。
さいごに
【チ。-地球の運動について-】の物語を辿りながら、魔女や異端裁判の歴史、中世の女性の差別意識についてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。
断片的な情報で物事を判断すると、とんでもない悲劇や惨劇が行われてしまうことがわかりますね。
信念を持つことは大事ですが、時には自分の解釈が間違っていないか振り返り、倫理観を外れないよう生きていきたいものです。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
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