村上春樹初のアニメ映画化【めくらやなぎと眠る女】短編集のぼんやりした場面を切り貼りした作品

村上春樹初のアニメ映画化【めくらやなぎと眠る女】短編集のぼんやりした場面を切り貼りした作品 2024年映画

2024年7月26日に、村上春樹原作映画【めくらやなぎと眠る女】の上映が始まりました。

本作は、フランスのピエール・フォルディスが監督を務め、同じくフランスのアニメ制作会社miyu productionが制作しています。

村上春樹さんの作品は、小説の完成度の高さから、アニメ化は嫌厭されているように見えましたが、今回初めてアニメ映画化が実現しました。

本作を鑑賞する前に、同じくmiyu productionが背景を描いた【化け猫あんずちゃん】を鑑賞し、その色鮮やかな背景に心を奪われました。

【めくらやなぎと眠る女】は、上映館の少なさから映画館での鑑賞を断念していましたが、miyu productionの仕事をもっと見てみたいと思い、今回時間を割いて映画館を訪れました。

【めくらやなぎと眠る女】の背景は、【化け猫あんずちゃん】とはまた違った美しさがあり、パステルや色鉛筆で描いたような淡くて優しい色合いが素敵でした。

しかし、村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』を読んだ経験から、【めくらやなぎと眠る女】は物足りない作品だと感じました。

本記事では、【めくらやなぎと眠る女】の良かった点と微妙だった点についてまとめてみました。

【めくらやなぎと眠る女】について

映画【めくらやなぎと眠る女】は、作家の村上春樹さんの短編を組み合わせて行ったアニメーション映画です。

使われている作品は、「かえるくん、東京を救う」「バースデイ・ガール」「かいつぶり」「ねじまき鳥と火曜日の女たち」「UFOが釧路に落りる」「めくらやなぎと、眠る女」になります。

舞台は2011年の東京で、テレビにニュースは一斉に東日本大震災のニュースを集中的に流しており、小村の妻であるキョウコは昼も夜も食事もろくに取らずニュースに見入っていました。

ろくに会話もできていなかった二人だが、震災が起こってから5日後、キョウコは置き手紙を残し家を出て行ってしまいました。

同じ頃、小村の同僚である片桐のもとに、背丈は2mもある「かえるくん」と名乗る何者かがやってきました。

かえるくんは、東京に東日本大震災と同規模の地震が起こると予言し、片桐に東京の地下で地震を起こすミミズと戦うのを手伝って欲しいと言います。

公式ホームページ→http://www.eurospace.co.jp/BWSW

【めくらやなぎと眠る女】の良かったところ

本作は、実際に役者の動きを録画し、人の動きをそのままアニメーションにする、ロトスコープに近い絵作りを行なっています。

そのため、人の動きは自然でそこに動いているかのような生々しさを感じます。

特に、冒頭で小村が歩き回るシーンや、小村とジュンペイがだらだらと話しているシーンは、人生でこういう場面ってあるよなぁと感じました。

今回吹き替え版で、本作を鑑賞したのですが、吹き替え版の役者たちもアニメーションと同じ体制をとりながら録音を行なったそうです。

また、先述した通り背景に色鉛筆を使うなど、幻想的な映像になっていたのが良かったと思います。

【めくらやなぎと眠る女】で好きになれたキャラクター

映画【めくらやなぎと眠る女】は、小村に起こった出来事、片桐がかえるくんに遭遇した事、キョウコの身に起こった不思議な経験などを元に話が構成されています。

そのため、物語の登場人物が多かったのですが、その中でも気に入った人物についてピックアップしてみました。

とにかくかえるくんよかった!

本映画の一番の見どころは、体長2m近くあるかえるくんのリアリティーある存在感だったのではと感じます。

実際に動いている役者の線を元に構成されたかえるくんは、生々しい人間感を醸し出し、目の瞼は定期的に瞬きを繰り返し水かきなどもとても気持ち悪かったです。

また、かえるくんは片桐との話が終わると、神のようにペラペラになり、ドアの隙間や窓の隙間からするんと飛んでいってしまいます。

先ほどまでそこにいたのに、幻想的に消えていくさまは、本当によくできていたと思います。

また、終始かえるくんに振り回される片桐の震える体も、アニメーションとして良く捉えられていたと思います。

日本語吹き替えでは、かえるくんを小館寛治さん、片桐を塚本晋也さんが演じています。

オーナーを演じる柄本明さんがよかった!

キョウコが昔働いていたレストランのオーナーを演じる柄本明さんは、村上春樹さんの独特の台詞回しも相まって、不思議な雰囲気を醸し出していました。

言葉遣いや20歳の女性に対する、細かな気遣いやゆっくりはっきり喋る様子は、今まで多くの人を魅了し、その人脈をお金に変えてきたのだという気品が溢れていました。

もしもこういう人に会えるのだったら、ぜひ会ってみたい、そして心の中でその経験を大事に持っておきたいと心から願えるような人物に【めくらやなぎと眠る女】では作り上げられていました。

ただ喋っているだけなのにジュンペイに存在感があった

物語の前半では、小村が親戚の男の子であるジュンペイと一緒に病院に訪れます。

二人はごく普通にバスに乗って、病院の待合室で飲み物を飲みながら話し、またバスに乗って帰って行きます。

特別に何かが起こることはなく、小村はジュンペイと会話しながらキョウコと自分の親友のことを思い出します。

本来なら、二人がただ喋っているだけなので、退屈してしまいそうですがジュンペイの存在感が際立っていたせいか眠くはなりませんでした。

やはり村上春樹さんのセリフ回しの良さもあったのだと感じますが、ジュンペイ役の梅谷祐成さんの演技も良かったと思います。

いまいち好きになれなかったキャラクター

本作の元になったと言われている【ねじまき鳥クロニクル】は、学生の時に強く印象が残っており、本作で少し違うキャラクターになっていたことは残念だなと感じました。

一つのキャラクターに、それぞれ違う短編のキャラクターを当てはめていくのは、気にならない場合もありますが個人的には少し引っかかりました。

原作だとハンサムだという小村

【めくらやなぎと眠る女】に登場する小村は、原作の【UFOが釧路に落りる】ではオーディオ機器専門店に勤めているセールスマンでした。

営業という仕事をしている小村は、外見が良く長身で人当たりがよかったと記述されています。

しかし、【めくらやなぎと眠る女】では、片桐に合わせて銀行員になってしまっており、見た目はあまり冴えず表情も暗かったのが残念でした。

どうやら、原作者の村上春樹さんの顔をモデルに作られたという話を聞きますが、それもなんだかしっくりこないなと感じました。

主人公の立ち位置にある小村がこのような外見で、釧路で女性と会った時に、若い女性が魅力を感じるか疑問に思いました。

また、後半では【ねじまき鳥クロニクル】の岡田亨のように、パスタを作っていたのが、なんだかキャラクターと話の流れにズレを感じてしまいました。

キョウコに魅力を感じない

【UFOが釧路に落りる】で登場したキョウコは、【めくらやぎと眠る女】で登場した女性のように、特に美人とは言えないごく普通の女性でした。

しかし、小村と結婚する前は小村の親友と付き合っていたり、失踪後も男性と二人で会っていたりと、男性づきあいに全く不自由しない女性に見えました。

それならば、年齢を重ねてもそれなりに魅力的な顔立ちの女性であって欲しかったです。

しかも、鼻の下に大きなホクロがあり、眉も整えればいいのになんだかボサボサで、どうして彼女がもてるのかわからないという感じでした。

ぼんやりとした印象の映画

【めくらやなぎと眠る女】は、村上春樹作品のぼんやりとしたモラトリアム期間を抽出したような映画でした。

緩い雰囲気が好きな人には合っていると思いますが、村上春樹さんの長編小説は、後半怒涛のような展開に巻き込まれて主人公が苦しみ痛みを伴う展開が待っています。

どうせ映画にするのならば、村上春樹作品特有の、主人公が困難に立ち向かう場面をもっと入れて欲しかったと感じます。

かえるくんと片桐の話は、ある意味その痛みを達成しましたが、小村の話の方が浮いてるんだか沈んでいるのかわからなくて退屈に感じてしまいました。

特に、最後に失踪していた猫である「綿谷ノボル」がある場所で発見されますが、それが【ねじまき鳥クロニクル】の話とあまりにもかけ離れていて残念でした。

さいごに

【めくらやなぎと眠る女】を観てきた感想についてまとめてきましたがいかがだったでしょうか。

村上春樹作品が好きな人には、全体的に楽しめる作品だと思います。

個人的には、物語の最後に納得がいきませんでしたが、人によってはあまり気にならないと思う人もいるかもしれません。

上映館は少ないのですが、村上春樹作品の初めてアニメーション化された作品なので、ぜひ多くの人に見てもらいたいと感じます。

最後まで読んでくれてありがとうございました。

miyu productionが背景、シンエイ動画がロトスコープを用いたキャラクターを担当した「化け猫あんずちゃん」も名作!

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